〜Fate GoldenMoon〜 

〜突然の襲来〜



「桜、お醤油とってちょうだい」
「はい、遠坂先輩……先輩、おかわりはいかがですか?」
「ああ、頼む」

そんなこんなで、表面上はつつがなく朝食は進行している。
といっても、未だにもの言いたげに俺を見ているライダーや、どことなく落ち着かない様子のジャネットなど、後々が怖い状況なのだが。

「…………」

ギルガメッシュはというと、相変わらず甲子園の放送に夢中になっていて、心ここにあらずの状況である。
まぁ、それでも明るい朝食に変わりはない。正直、このまま何事もなく時が過ぎて欲しいものだけど…………。



「ただいまー! は〜、おなか空いたわ」
「…………」

ほ〜ら、救いなんてどこにもありゃしない。縞々模様の虎を見て、俺は半ば覚悟を決めて、むしろ悠然と座っていた。

「士郎、ごはん」
「…………ああ、桜、頼む」
「はい、藤村先生、どうぞ」

差し出されたお椀を受け取ると、藤ねえは何か変だな〜という表情を浮かべながら、御飯をかっ込む藤ねえ。
そうして、しばらくして、ようやくおかしい事に気づいたんだろう。

「桜ちゃん……!? 一体、どうしてここにいるのっ?」
「あ、え〜と、その……実は急に身体の調子が悪くなって……それで、病院に一度行った後、先輩の家にご厄介になっていたんです」
「そうなんだ……でも、だったらちゃんと連絡をくれないと。皆して、桜ちゃんが行方不明になったって心配していたんだから」

そう言いつつも、ホッと胸をなでおろす藤ねえ。何だかんだ言って、心配していたんだろう。肩の荷が下りたという感じであった。

「ま、なんにせよ、桜ちゃんが無事でよかったわ。こうやって、皆で朝食をとれて――――」


「って、また変なのが増えてるーーーー!?」



飛び交う茶碗、ぶちまけられる中身。唖然とした様子のライダーやジャネットだが、俺や遠坂、桜は落ち着いたものだった。
いや、藤ねえの行動パターンも大体読めていたし。それでも、飛来した食材をよけられないのは、ゲイ・ボルク並みの投擲能力でもあるからなのだろうか?

「まぁ、落ち着いてくれ、藤ねえ……って、聞いちゃいないし」
「うるさーいっ、だから許可なしに、誰でも彼でも泊めたりしないのっ! そもそも、誰なのよぅ、このメガネの女の子は!?」

俺に、オクトパスホールド卍固めを決めつつ、藤ねえはビシッ、とライダーを指差す。

「ちょっと、ギブ、ギブ、藤ねえ、骨が外れるって……!」
「だぁっ、そんなことを聞いてるわけじゃないのっ、私が苦労して桜ちゃんを探してたのに、その間にこんな美人を連れ込んでるなんてー―――!」

だから止めてくれって、関節が、関節がミシミシいってるって…………!

「あの〜、藤村先生。その人は、間桐さんの付添い人なんですが」
「へ?」

さすがに見かね、助け舟を出してくれたのは、かくいう遠坂その人だった。
その言葉に、藤ねえは俺に掛けていた技をといて、驚いたようにライダーを見る。

「間桐家に仕える使用人で、容態が悪くなった彼女を病人に連れて行ったり、この家に連れてきたのは彼女の働きだと聞いています」
「ふ〜ん、まぁ、話のつじつまは合ってるけど……だったら、何で彼女までここに泊まってるの?」
「……じつは、間桐さんの容態はあまり良くなくて、その人が寝ずに看病をしてくれたんです。本当は、私か衛宮君がしなければならないと思ったんですが」
「う……」

しんみりとした口調に、二の句が告げなくなったのか、藤ねえは絶句し、さすがにそれ以上追及するのを断念したようだ。
もともと、口では遠坂に勝てないと分かっている。結局、この場は藤ねえが折れるしかないと理解したようだった。

「わかったわ、えっと、あなたの名前は?」
「……ライダー、とお呼びください。故あって、本当の名は明かせませんので」
「ふーん、ライダーさんね。ハーフみたいだけど……ま、いいか。これからも、桜ちゃんのことよろしくね」
「はい、それは承知しております」

藤ねえの言葉に、穏やかな笑みを浮かべるライダー。何だかんだ言って、どうやら藤ねえに認められたようである。



「――――それで、あとはその子なんだけど」

そうして、藤ねえが再び視線をめぐらした先には、キョトンとした表情で佇むジャネットの姿。
藤ねえは、じーっ、と彼女の姿を見た後で、ギルガメッシュのほうを向いた。

「ひょっとして、ギルガメッシュ君の弟さん?」
「違う」
「違いますっ!」

藤ねえの問いに、憮然とした様子のギルガメッシュと、むっとした様子のジャネットの声が見事に一致した。
その様子が、照れ隠しだと思ったのか、藤ねえは面白そうな表情でジャネットの肩をポンポンと叩いた。

「いいのよ、照れなくても。それにしても、よく似てるわね〜。ね、名前、なんていうの?」
「――――」
「ジャネット、っていう名前なんですよ、藤村先生」

むぅ、として押し黙るジャネットの代わりに、遠坂はニコニコ笑顔でそう答えた。
ジャネットには悪いけど、これ以上話をこじらせないように、藤ねえにはギルガメッシュの弟で通した方がいいと判断したんだろう。

「マスター……!?」
「ジャネット君かぁ、これからよろしくねっ」

ジャネットの手を握り、ブンブンと振る藤ねえ。そのフレンドリーさに、ジャネットはどうしたものかと困惑の表情を浮かべていた。

「なんにせよ、家族が増えるっていいことよね……そういえば、イリヤちゃんは?」
「ああ、イリヤなら、実家の方に用事があるって、付添い人と一緒に出かけていったよ。遅くても、明日には戻ってくるだろうけど」
「ふぅん、イリヤちゃんの実家って、確か外国の資産家の家なんでしょ? そういうトラブルって、大変そうよね」

ふむふむと頷きながら、すちゃっ、と席に座る藤ねえ。どうやら癇癪は収まったようだ。

「さ、それじゃあ、朝ごはんを食べちゃいましょ。皆にも桜ちゃんの無事を伝えなきゃいけないし、今日は忙しくなるわね」
「はいはい、桜、藤ねえにおかわりを、よろしくな」
「はい、先輩」

藤ねえも加わった食卓は、それから賑やかに進行した。
わいわいと、和やかに進む朝食。他愛もない世間話に花を咲かせる朝食の席で――――どこか、不満そうなジャネットの表情が印象に残った


〜幕間・挑戦状〜

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