ぱすてるチャイムContinue Lu Monde
たいせつなともだち
ナツミに送られてきた、偽のラブレター事件。それは過去に掲載された、ナツミの記事を逆恨みをした男の嫌がらせだった。
けっきょくそれに振り回され、3時間も待ちぼうけをくった挙句、その姿を写真にとられたというのに、ナツミはけろりとしていた。
本人いわく、悪戯にガッカリするよりも、俺が怒ってくれたことが何より嬉しかったそうだ。
俺自身は、ナツミにあんな嫌がらせした男なんて、許しちゃ置けなかったが、ナツミに諭され、結局は手を出さないことにした。
ナツミがそれで良いというのなら、良いんだろうな……そう結論付けて、俺は一応納得した。
「さ、かえるのさ、ナギー」
「ああ、そうだな」
そうして、俺達は降りしきる雨の中を、お互いに競い合うように寮へと走っていった。
日も暮れ始め、夜へとなり始める時分……世界はまだ、俺達に時間を残してくれていた。
「…………」
「ふんふん、ふ〜ん♪」
気持ちよさそうに、シャワーを浴びる音が、浴室から響いてくる。ここは、俺の部屋……断じて、俺の部屋である。
多少は整理した俺の部屋の片隅に、乱雑に置かれたのは、女子生徒の制服の上着とスカート、それに肌着に靴下まであった。
普通なら、さすがに落ち着かない気持ちになるのだが、持ち主が持ち主なだけに、到底そんな気持ちには、なれなかった。
「まったく、脱ぎ散らかしたままで置くなよな……ったく」
ぶつぶつ言いながら、制服を手に取る。制服は、じっとりと水を吸い取り、重くなっていた。
何でこんな事になったかというと、男子寮に入ろうとした矢先、女子寮に行ったはずのナツミが、俺に引っ付いて部屋まで来たのである。
「おい、何でついてくるんだよ!?」
「仕方ないのさ。こんなカッコで女子寮に入ったら、つまみ出されちゃうのさ」
言いながら、口を尖らせるナツミの姿は、俺と同じ濡れねずみで、今も水滴がポタポタと落ちている。確かに、建物の中に入れるのは、ちょっとごめんしてほしい格好だった。
しかし……女子寮は駄目で、だったら男子寮はいいのか? という突っ込みを入れたくなったが、まぁ、確かにそう言ったところは女子はうるさいだろう。
そう言うわけで、しょうがないから部屋のなかに入れて、体を拭くためにバスタオルを貸そうとしたのだが……ナツミはバスタオルを受け取るなり、
「じゃあ、ナツミが先に入るから、ナギーは待っててほしいのさ♪」
「って、なに服を脱いでんだよ! あ、おい――――」
下着姿になったナツミは、慌てる俺をよそに……ピシャッ、と浴室のドアを閉めて、シャワーを浴びだし、今に至るのであった。
「えっと……これで、いいんだよな?」
衣類をまとめて部屋の隅に置き、女子の制服をハンガーにかけ、俺は首をひねりながら自問自答する。
自分の制服ならともかく、他人の、特に女子の制服など、どう取り扱っていいのか分からない。
ともかく形だけそれっぽく、ハンガーにかけると、後は自然に乾くのを待つことにした。
「ナギー、お待たせなのさ!」
と、浴槽の扉が音を立てて開いた。どうやら、ようやくシャワーが終わったようである。
やれやれ、俺もシャワーでも浴びるかと、俺はナツミの方を向いて――――、
「ぶっ!」
「?」
ナツミの姿を見て、俺は思わずのけぞった。ナツミの格好はというと、どこから調達したのか、俺のシャツを羽織り――――後は、下着だけ。
加えて、なぜか上のほうの下着……つまり、ブラはつけてなく、狙っているのか、シャツの前のボタンは外したままであった。
「どうしたのさ、ナギー?」
「な、ナツミ……お前、その格好」
俺の言葉に、ほ? とナツミは自らの格好を見下ろし、きしし……とからかう様な笑みを浮かべた。
「脱衣所においてあったのさ、他に着るものもなかったし……ナギー、照れてるのさ?」
「なわけあるかっ。おまえなぁ、もう少し恥じらいってものを持てよ」
「んふふ〜♪ そういっても、ナギーも照れてるのさ」
人の言うことを聞いちゃいない……あきれる俺をよそに、ナツミはシャツの袖口に手を持っていって、クンクン嗅いでいる。
…………あ、そういえば洗濯籠に、まだ洗ってないシャツとかも置いてあったけど、まさか…………、
「おい、ナツミ……そのシャツって、もちろん棚に入ってる――――洗ったやつだよな」
「――――……あはは、ナギーの匂いがするのさ」
困ったように笑うナツミのその様子に、頭に血が上った。このアマ、よりにもよって洗ってない方を着るか!?
自分の着た物を他人に着られているというのが、なんだかすごい恥ずかしくて、俺は思わず、ナツミにつかみかかっていた。
「さっさと、それを脱げ――――!」
「きゃ〜、襲われるのさ〜♪」
ドスン、バタンと揉みあい圧しあい……結局、ナツミの服を引っぺがして、新しいシャツを着替えさせるまで、結構な手間がかかったのだった。
つかれきった身体で、俺は浴室のドアを開ける。振り向くと、ベッドに寝転がりながら、鼻歌交じりに愛用のカメラをいじる、ナツミの姿が見えた。
「♪〜〜♪〜〜〜〜」
…………ともかく、シャワーを浴びよう。ナツミの服が乾くまで、まだ時間もあることだし。
部屋に隠してあるものを、漁られないように祈りながら、俺も雨にぬれた身体を洗うため、浴室に入ったのだった。
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