さっちゃんのおつかい 

さっちゃんのおつかい


3・かえりみち

そんなこんなで、殺と秋光はミドリガオカに戻ってきた。
特に言葉を交わすわけでもなく、二人は道を歩く。

殺は、基本的に無駄話を好む性格ではないし、秋光は終始寡黙だ。
だが、別にそれで気まずいわけでもなく、普段から二人はそんな感じである。

そうして歩いて、しばらくしたときである。


「む……」

殺は、何かに気付いたようで、道端に目をやった。
秋光も、そちらの方に目を向ける。

そこには、一匹の黒猫が居た。
道端に置かれたコンクリートの瓦礫の上に丸くなっている。

黒猫は、殺達の気配に気付いたのか、首を持ち上げると、にゃあ、と一声鳴いた。
殺は、その場にしゃがみ、ち、ち、ち、と、舌を鳴らすような声で、黒猫を手招きする。

と、人に慣れているのか、黒猫は恐れるふうもなく、殺のもとに寄ってきた。
猫の習性で、殺の足に頬ずりする黒猫。
殺は、そんな黒猫の頭をしばし撫でていたが、ややあって、黒猫を抱き上げた。
抱き上げられても反抗しないところを見ると、黒猫も殺の事が気に入ったようだった。

「……飼うのか?」
「戦力調達だ」
「そうか」

頭上で不穏な会話が交わされていたが、黒猫は何も知らず、眼を細めていた。
立ち上がった殺は、じっと黒猫を見て……。

「うむ、今日からお前は悪司組の一員だ。よろしく頼むぞ」

と、真剣な口調で言ったのだった。


<黒猫が仲間になった>


「さて、少々時間がかかってしまった。急ぐとしようか」

と、殺は言うと、秋光に黒猫を手渡した。
秋光は、ほんの少し戸惑った顔をしたが、黒猫が暴れる様子もなかったので、気を取り直し、左腕で抱えた。
さすがに、利き腕を使うわけには行かなかったので、まるで荷物を抱えるような姿勢になってしまったが。

そのまま、殺と秋光は道を歩きだした。

「この子の名前だが……バンジョーというのはどうだろう」
「…………」

ややあって投げかけられた、殺のその質問に、秋光は沈黙で答えた。
それは、否定だったのか、肯定だったのか……。

何にせよ、黒猫の名前は、それからしばし、悪司国の内部でも討議の的になったのであった……。


<終>

本日のおつかい。
おみそ 480円
ケーキ 400円×6
黒猫    0円

合計 2880円

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