リーマスの様子が、変だ。妙に恨めしげな目で見られる。 笑われるなら、話は判るんだ、だけど、恨まれる覚えは全くない。
「リーマス、一体俺が何をしたって言うんだ」
耐え切れず、俺はリーマスに直接問いただした。そりゃ、そうだ。俺がハリーと話していると、じっとりと睨まれる。ハリーは俺の方に懐いてるのかって言えば、違う。リーマスにも充分、懐いている。それなのに。
「ずるいっ」
子供みたいに拗ねた目をして、それか?
「なーにが『ずるい』んだ」
「どうして、きみだけ、『シリウスおじさん』で、僕は『ルーピン先生』な訳? 絶対に、ずるい」
マジな顔をして何を言い出すかと思えば、こいつは。
「『おじさん』って呼ばれて嬉しいか?」
俺は、嬉しくない。元々『お兄さん』と呼ばせる予定でいたんだ。それを、あいつが裏切った所為で、俺は『おじさん』だ。
そりゃ、おまえは、リリーが、絶対に『おじさん』呼ばわりは許さないが、俺は違う。あの女は、考えたくはないが、ジェームズも一緒になって、嫌がらせ込みで、俺を『おじさん』と連呼しただろう。ハリーが、それを知っているわけでもないだろうに、俺を『おじさん』だ。
もう今じゃ、ハリーが『おじさん』って呼びたきゃ、呼んでくれと開き直るしか道はない。
「嬉しいに決まってるじゃないか。
きみと違って、僕には、ハリーしか、『おじさん』って呼んでくれる子はいないんだよ?」
恨みがましく、ハリーがそう呼ばないのは、全て俺の所為だと言わんがばかりに。
「それに、夢、があったんだ」
こいつのハリーに対しての夢はロクでもないもんだって事くらい、覚えている。
オムツを替えた、お風呂に入れた子供が、こんなに大きくなってと言いたかったのは聞いた。多分、いくつまでおねしょをしてたのに、も夢の一つに入っていた筈だ。事あるごとに、それを言われ続ける身には、どれ程辛いか判ってないんだ、こいつは。
こちらの危惧を察することなく、うっとりと、遠くを見る眼をしてハリーにとっては不幸でしかない夢とやらを語り始める。
「『リーマスおじさん』って呼ぶハリーの鼻を摘んだり、頬をにゅーと引っ張ったり、クッションに埋めるのもいいなぁ、それで、『リーマスお兄さん』だろう?って言う予定だったんだ。それなのに、きみだけ?」
予想通りのハリーには迷惑でしかない夢を、これはもう野望ってやつだろうが、を語るリーマスに呆れる。
「結局、『おじさん』は嫌なんじゃないか?」
「『先生』とは親密さが違うだろう?
家の中で、『養い子』がいて、『おじさん』がいて、『先生』がいたら、これってばもう家庭教師だよね?僕の立場って?これじゃ僕1人が他人っぽくない?
あれ、待てよ。『先生』?家庭教師?
きみは、『おじさん』?保護者?
ってコトは。きみは、ハリーと一緒に食事をとる権利がないってコト?・・・だよね」
今、こいつの頭の中では、いわゆる上流階級の、いいたくはないが、俺やジェームズが属していた、あくまでも属して、いた、過去形の話だ。その階級の子供の扱いに当てはめて、自分に有利にコトを運ぼうとしている。
「あぁ、駄目だよ。絶対に、ハリーが嫌がる」
しかし、どういう結論に行き着いたのか、この世の終わりにでもならなければ、あげないような絶望的な呻き声をあげて、悲嘆にくれる。
こういう時のリーマスには、なにを言っても無駄なことは昔っから、充分に、知っている。
薄情なようだが、放っておくのが、一番の対処法だ。
「やっぱり、ハリーはシリウスの方が好きなんだね。最初に覚えたのが、シリウスの名前だもの。
シリウスだってそうだよね、僕には手紙の一つもくれなかった薄情者のクセに、ハリーには、バースディプレゼントまで、贈るし。
僕がピーターを探していた時には、きみってば、ちゃっかり、ホグワーツにいて、ハリーに構いっきりだったし。
自分の身の潔白の証明なんて、二の次で、ハリーが第一、本当にきみ、脱獄囚の汚名を雪ぐ気があったのかい?
そぉれぇにぃ、きみの所為で、本来、僕が収まるべき役割を、ハグリット如きに取られちゃうし、判ってるのかい?本当だったら、僕がハグリットの場所にいられたんだよ?
それに、なに?僕の時には、当然のように、一緒に暮らそう。で、ハリーには、あんなにしどろもどろにお願いする?
いまだに、チョコレートの箱詰めがせいぜいのプレゼントなのに、ファイヤボルト。
ああ、先に言っておくよ。もう、僕に蛙チョコは通用しないからね。
きみさぁ、僕とハリーと扱いが違いすぎるんだけど、やっぱり、きみ。恋人より親友の忘れ形見が大事ってことは、僕より、ジェームズの方が大事なんだね?
相手はもういないんだよ?僕はもう、一生勝てないってことじゃないかっ。
シリウスッ。なにかいったらどうなんだい」
永遠に続くに違いないリーマスの、もうどうでもいいことまで混じり始めた、恨み言に付き合っていられない。
リーマスのごく一面に過ぎない、常識人の顔しか知らないハリーに、俺は、『ルーピン先生』が、いじけているから、『リーマスおじさん』と呼んでやってくれと、それにはもれなく、リーマスの傍迷惑な野望が付いてくると判っているのに、俺が、ハリーにお願いしなきゃいけないのか?
それとも、俺を『シリウス』と呼ぶか、これなら、リーマスは『先生』で妥協するんだよな?おまえは。
どちらかにしてくれと、そんな馬鹿馬鹿しいことをいうのか?いわなくちゃいけないのか。
どうしたらいいものかと俺は頭を抱えた。
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