ささやかな野望 その前
 ハリーと、ハーマイオニーが呼んだ。
 シリウスからの手紙を何度も読み返して、もうすぐキングズ・クロス駅につく頃。
「ハリー、わたし、考えたの」
 何を?と怖くて聞けない。ハーマイオニーの真剣な顔。
「シリウスさんのこと、やっぱりおじさまって呼ぶべきよ」
「おじさん?」
「そう、だって、ハリーのお父様の親友なのよ?シリウスじゃ失礼よ」
 失礼と言われても、生憎とハリーにはそういう経験はない。仕方がないので、そういうものかい?ともう1人の親友にハリーは視線を流す、しかないだろう。
「うーん、そう、なの、かな?」
 ロンは、しかし、自信なさそうに、言葉を濁す。
 それでも、2人がそういうのなら、それが正しいのだろうか?
「そう、だから、ハリー。おじさま、なのよ?」
 物言いたそうなロンの顔。ハリーは、その意味を聞いた方が、とても、良いような気がしてしょうがない。
「なんなの?ロン」
「確かに、パパの友達はおじさんだけど、だけどね、ハーマイオニー」
「何かしら?」
「パパの妹はおばさんと呼ぶと、『教育的指導』っていうのがはいるんだ」
「なんなのよ、それ」
「ハーマイオニーは、ないの?おばさんって呼ぶと、わたしはまだ独身なのよ、お姉さんと呼びなさいって」
「おじさまの妹が独身って、一体いくつなのよ」
 胡散臭げなハーマイオニー。
 おじさんとその妹には申し訳ないけれど、ハリーも同じことを思ってしまう。アーサーおじさんの妹。間違いなくペチュニアおばさんより年上ではないのだろうか?
「ビルとちょっとしか変わらないかなぁ」
「そうね、それは、ちょっと酷だわ」
 ロンの一番上の兄の名前を出されて、彼女はあっさりとお姉さんの味方についた。
「だろ?シリウスだって、まだ独身なんだし。多分、お姉さんとそう違わない年齢のはずだと思うんだ。やっぱり『おじさん』は可哀想だよ」
「でも、シリウスさんは、ハリーの名付け親なのよ。尊敬をこめて『おじさま』だと思うわ」
「せめて『お兄さん』。ハーマイオニー、忘れてると思うだけど、パパと同期生って、マルフォイの父親だぞ?一緒にされたら、泣くんじゃないかな?」
「そう、かも。そうかもしれないけど、だけど、やっぱり、尊敬と・・・」
 ハリーには、皆目理解の出来ない会話。珍しくハーマイオニーが不利であることがかろうじて判断できるくらい。
「ハーマイオニー、その理屈でいうと、ルーピン先生も、リーマスおじさんになるんだぞ」
 ロンの反論は、ハリーとハーマイオニーに最大のショックを与えた。そういわれれば、ルーピン先生も父親の親友、だった。本当なら、リーマスと呼ぶような関係だったのだろう。あの1年間の密かな暖かい交流は、ハリーが、親友の息子だから与えてくれたものだったのか?だが、ルーピン先生はルーピン先生でしかありえない。
「ぜったい、だめ。ルーピン先生は先生だわ。
 でも、でも、シリウスさんは、おじさまなのよぉ」
 隣に筒抜けになりはしないかと心配してしまうほどの、ハーマイオニーの絶叫。


 クレッシェンドされていく小さい笑い声。ロンと2人、顔を見合わせ、とうとう、ハーマイオニーが壊れたのかと、心配になる。
「判ったわ、ロン。あなた、シリウスさんの方を持ってるんじゃないわ。自分を守ってるのよ」
 威嚇するようにロンを指差し、きっぱりと言い切る。
「な、何のことだい」
「ハリー、よく聞きなさい。ロンはね。自分が『おじさま』呼ばわりされたくないから、シリウスさんを『お兄さま』呼ばわりするのよ」
「どうして?」
「ビルが結婚して子供を産めば、ロンは漏れなく『叔父さま』になるの。
 だから、ハリー。シリウスさんのことは今後『おじさま』と呼ぶのよ」
 ぴしゃりと命令されて、
「う、うん」
 何がだからなのか、全く判らないままに、頷いてしまった。
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