心地良い揺れと母性本能。

 

終電の時刻が近い。

当たり前のようだけど、今日がもう終わる。

季節はもう春だけど、深夜の風は少し冷たくて。

春物の薄着で来たことを後悔していると。

「あ、……ありがと」

「どういたしまして。寒そうだしね」

後ろから、沢村が自分のジャケットをかけてくれた。

こういうシチュエーションだと定番でしょ、とか言いながら。

「今日、楽しかった?」

「ふえ? あ、うんっ。すっごい楽しかった!!」

今日は、沢村がバイトの休みだって話で。

昨日、いきなりメールで“遊園地に行こう”って言われたときは、すごく驚いた。

いつもいつもいっつも、誘うのはあたしだったから。

初めて沢村からデートに誘われて、いつもより服を選ぶのも頑張っちゃったりして。

「よかった。わざわざバイト休んだ甲斐あった……っと!!!」

言ってから沢村は慌てて口を押さえたけど、あたしにはしっかり聞こえてる。

あたしが沢村の言葉聞き逃すはずないんだから。

「……バイト、休んだの?」

「今のは聞かなかったことに」

「しない」

「……休んだよ」

「あう、どうして?」

「……母親みたいに聞くんだな、伊万里」

「あううっ、はぐらかすなぁ!!」

聞き出そうと頑張ってたのに、丁度電車がホームにやってくる。

ほら来たよ、と沢村に背中を押されて、しぶしぶ電車に乗り込んだ。

 

 

 

電車の中はすごく空いていた。

どれくらい空いてたかっていえば、……あたしたちのいる車両には、疲れ果てて眠ってるオジサンが2、3人。

あたしたちとは随分離れたところに座ってたけど。

「たまには俺から誘ってみようかと思ったんだ。それだけだよ」

「へ?」

「さっきの話の続き」

「え、あ、……そっか」

「最近誘い断ってばっかりだったし。これじゃあ破局になってもおかしくないかなーとか思って」

「怖くなった?」

「当然」

ま、誘ったおかげでかなり疲れたけどね。

そう言って、沢村はひとつ大きなあくびをした。

「眠い?」

「まあまあ」

「ずっと遊んでたもんね」

「それもそうだし……。電車に揺られてるとどうしてこう眠いかな」

「沢村、知らないの?」

前にテレビでやってたことを、思い出す。

「電車の揺れって、お母さんのお腹にいるときの揺れに似てるからなんだって」

「……そうなの?」

「うん、確か」

「随分物知りだね、伊万里」

「うう、そんなこと言って。実は沢村も知ってるってオチだろー」

だって、沢村はいらない知識をたくさん持ってたりするから。

ずっと見てきたから、それくらい解る。

「はは、バレてたか」

「もうっ、バレてるもん!!」

あっさり白状して、いたずらっ子みたいに笑う。

いつもの“微笑み”って感じの笑顔より、こうやって笑う笑顔の方があたしは好きだったりするんだけど。

子供っぽい、みたいな感じ。

乗車した駅の2つ次の駅に着いて、すぐに発車する。

この車両に乗ってきた客はいないみたい。

「はわっ、沢村!?」

「電車の揺れは母親の胎内に居た時の揺れに似てるんだろ?」

「え、うん」

「だから。体感体感」

あたしの腿のところに沢村が頭を乗せる。

――膝枕状態。

「体感って……!! 沢村っ、人いるよ?」

「見せ付けてあげたいところだけどみんな寝てるよね」

「次の駅で誰か乗ってくるかも!!」

「一番端なんか乗らないよ、多分。終電だし」

どうやら、彼には勝てないらしい。

また、あたしの好きなあの笑顔になってる。

「どう? 母性本能くすぐられる?」

「うー……? やさしい気分になる」

「それだけで十分」

そのままの体勢はさすがに辛いらしく、起き上がって、キスをされる。

見てる人が誰もいないなんてことはわかってるけど、やっぱり恥ずかしい。

「あううぅ……」

「じゃ、おやすみ」

沢村はあたしの肩に頭を預けて、すぐに眠ってしまった。

これじゃああたしは起きてなきゃじゃんか、と思いつつ、わざわざバイトを休んで誘ってくれた彼に対する感謝として、大目に見ようとも思う。

まだ、あどけなさの残る、寝顔。

その寝顔は、正にあたしの母性本能という奴をくすぐってくれて、そっと、頭を1回だけ撫でた。

 

 

++++++++あとがき。++++++++

 

そうなんですって。(何が)

電車の揺れは母親の胎内にいるときの揺れに似てるから眠くなるらしいです。

中学時代に友人に教わりました。

けど沢村っ……膝枕なんてセクハラだー!!!!(待て)

なんだかよくわかんない文だ。

多分眠いんです。(爆)

 

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