――風鈴の音色が、優しかった。
インソムニア
夏が終わろうとしていた。
エアコンをつけずとも、窓を開けておくだけで涼しいと感じる。
窓の外をぼんやり眺める。
今年、大接近だという火星が、すぐ近くに赤々と輝いて見えた。
後方で、ノブの回される音。
リン、と涼やかな音と共に、彼が部屋へ入ってきた。
「………よう」
「………今晩和」
風鈴の音が聞きたくて、彼に電話した。
何故だか寂しくて悲しくて、涙が段々量を増して零れて、
平然としていたつもりだったのに、いつの間にか涙声になってしまっていて。
それなのに彼は変わらずいつもの調子で。
変に心配しない彼の優しさに、何故だかもっと辛くなった。
「………風鈴、持って来たぞ」
「……ありがとうございます」
優しい音色を聞けば休むことができるだろうか。
あんなにも強かった私は、こんなにも弱くなった。
ひび割れてしまったすべての傷を埋めて修復することなど可能なのだろうか。
――違う、私は風鈴の音が聞きたいんじゃない。
この傷口を創った貴方に会いたかった。
貴方のせいで、夜も眠れない。
「………眠れないんです」
「…………」
「………側にいてください」
「……………」
ぐっと強く抱き締められる感覚。
彼から手渡された風鈴がりんと音を立てて、生暖かい夏の風に吹かれて揺れる。
意識が何かに引きずられていく。
――大丈夫、目が覚めれば彼がいる。
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<あとがき。>
1500のキリ番を踏んでくださったyuuka様のリクエストで鳴ひよ・シリアスです。
ハッピーエンド……にはなってるんでしょうか。なっていると信じたいです。
えー、やっと螺旋アップできました。
授業中に必死で構想練って、妙な方向に妄想が脱線しないように気を配り。大変でした。(何)
1度やってみたかったのです。
行と行の間に改行入れまくる短編。
そんなこんなで風鈴が好きです。(関係ないよ)
それでは、駄文ですがyuuka様、よろしければお持ち帰りください。
≫Spiral≪