思いは遥か、遥か遠くへ。
遥か・空
「なーにやってんだ、嬢ちゃん」
後ろに人の気配。
フェンスから手を離すとカシャと言う音がする。
いたのは、赤紫の髪が鮮やかな――
「浅月さん」
に、と浅月は笑い、ゆるく結ってあるおさげ髪の少女の隣に座る。
チャイムの音。
昼休みの終わりを告げる、昼下がりの鐘。
「サボるんですか? 5限目」
「もちろん」
「サボり常習犯ですもんね。そのくせ点数は取るからって数学の先生怒ってらっしゃいましたよ?」
「そっか。じゃあ今度赤点でも取ってみるかな」
フェンスの向こうには空。
その下には校庭。体育着を着た生徒たちが上空からは小さく見える。
“人がゴミのようだ”なんて、昔観たアニメ映画の真似事でもしてみたくなるとひよのは思った。
「嬢ちゃんもサボり常習犯なのか?」
「一緒にしないでくださいよ。いつも教室でちゃんと授業受けてます。気づいてないんですか?」
同じクラスなのに、と付け足すと、あまり興味なさげに浅月が返す。
「俺、サボってないときは寝てるから」
「いいですねえ、知能が高いんでしたっけ? 羨ましい限りです」
「まあな。おかげで勉強で努力したことなんざほとんどねえ」
それがいいことなのか悪いことなのかはわからない、そう付け足そうとして、言葉を飲み込む。
ひよのは“へえ”と頷きながら、ただ前を向いている。
言いたいことは通じているはずだ。頭じゃなくて心で受け止めてくれる彼女だから。
何故だか安堵に似たため息を浅月が吐くと、つられるようにひよのも同じようにする。
「幸せ逃げてくぞ」
「いいんですよ、逃げてくほど幸せじゃないですから」
「寂しいこと言ってんじゃねえよ」
言うと浅月はぱっと近くの空気を左手で掴み、そのまま左手でひよのの口を塞ぐ。
「浅月さんっ!?」
「いーから息吸えよ」
すう。
小さな呼吸音。
「どうだ? 幸せ戻ってきたか?」
「わかりませんよ、そんなの」
そのまま、暫しの沈黙。
2人は地上とも空ともつかない場所を視線で追い、その2つの視線が絡み合うことはない。
数分もすると、地上で灰色の髪の少女が大きく手を振っているのに浅月が気づき、軽く手を振り返す。
また、沈黙が帰ってきた。
「……空を、見てたんです」
「……で?」
「たまには、遠いところに行きたいなぁと思いまして」
「ホームシックってやつか?」
「何でホームシックなんですか」
「なんとなく。そんな感じしただけ」
ただボキャブラリー少ないだけなんじゃ? とひよのが問うと、そうかもしれない、と苦笑しながらの返答。
こうしていると、泣きたくなる。不意に。突然に。あまりに普通すぎるから。
「気持ちがですね、ふっと飛びたくなるんですよ。自殺願望とかじゃなく」
「……ま、たまにはそういうのも必要だわな」
普通じゃない毎日に慣れてきていた。
だからこそ、普通が恋しくて、普通に慣れてしまうと、今度は普通じゃない日々に憧れて。
「……結局、どうしたいんでしょうね」
「それは嬢ちゃんしかわかんねえだろ」
「知能の高い浅月さんでもダメですか」
「さすがにな」
こうしていると泣きたくなる。
互いの声が、どうにも優しく響くから。
ただ授業をサボっただけなのに、泣いて帰るなんて恥ずかしいことこの上ない。
プライドだけは高い2人は、言葉になんか出さないけれど。
「……さって、授業終わるまで何して暇潰します?」
「手繋いで教室帰るのもアリだぜ?」
「それ、本気で言ってます?」
「本気65%、冗談65%」
「五分五分って言えばいいじゃないですか」
今はいい。
今だけ、普通の日々を。
やがてくる、普通じゃない日々のために。
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<あとがき。>
「何やりたいの?」とか言ってください、ホント。もう無理。
螺旋月間早々挫折しそうです、げふ。
何か日常モノが書きたいんですね、最近。種にしても螺旋にしても。
斉まどに続き、今回はこーひよ。
次何だろう。ネタが浮かび次第ですが(これにネタなんかあんのか)、ノーマルで。
あ、でもこー+沢書きたい。(待て) あゆ+こーも書きたい。
どうしようどうしよう。書きたいって言えば、清沢書いてみたい。(アブノーマルじゃん)
さわあまも書きたいなぁ。さわいまじゃなくて。
んー、悩みどころです。