『 この命、燃え尽きるまで―――― 』
「花火をしないか」
最初はその一言から始まった。
珍しく、雨苗からの誘い。
待ち合わせは午後7時に、近くの河原。
相手が雪音だからだろうか。
心なしか浮かれている自分がそこにいた。
午後7時。例の河原。
やや大きめの岩に腰掛けて、そろそろ来るであろう彼女を史郎は待っていた。
数分後。
後方から声がした。
「遅くなった」
「いいよ。気にして……ない…」
目が点になる瞬間を感じた。
雨苗雪音、その人は浴衣を身に付けていた。
紺地に、桃色や黄色の花が鮮やかだ。
「ど、したのそれ。雨苗って今、家出てたんじゃ……?」
「似合わない?」
「いや、そういうんじゃないよ。似合う」
別に浴衣を着ていなくても、十分彼女は美しい。
何せ、学校一の美人と謳われていたほどだ。
「今日、急にどうしたの?」
いそいそと花火のパックを開ける雪音に向かって、史郎は岩に座ったまま問う。
「花火がしたかった。それだけじゃ不満?」
「いや、嬉しいよ。久しぶりに会えたし」
雪音に向かって微笑む。
街頭は河原からやや離れたところにあるせいか、明かりはあまり届かない。
だから、花火をやるには絶好のスポットだと言える。
「はい」
手渡された数本の花火。
準備よく持ってきたらしいライターで雪音は自分の花火に火をつけた。
「……………」
無言で、その火を分けてもらう。
しゅうっと音を立てて、火花は桃色に緑に変色していく。
「綺麗……」
街頭の明かりが届かないこともあり、光は2人の周辺を囲むように光っている。
雪音の発した“綺麗”という言葉を何故だか史郎は否定したくなった。
『雨苗の方が綺麗だよ』
そう言ったら、きっと自分は100%キザ夫になってしまうだろう。
それに、笑われることは目に見えていた。
事実でも、言っていいことと悪い事がある。
TPOをわきまえよう、と史郎は固く決意した。
「どうかしたの、沢村?」
「え、あ、いや、別に何も」
いささか赤くなっているであろう顔を雪音から逸らし、暗がりに向ける。
夜風が頬を撫でると、この熱までもっていってくれそうな気がする。
1本ずつ、1本ずつ花火は燃え尽きて消えていく。
じゅっと音を立ててはバケツに入っていく花火の残骸。
「……線香花火、しない?」
「え? ああ、うん」
線香花火。
花火をやると、ほとんどの人はこれを最後にやるだろう。
どうしてなのかは分からないが。
「すぐに落ちて……消えてしまう」
寂しそうな表情。
儚い、小さな灯。
「ねえ、雨苗」
「?」
彼女は屈んだまま史郎の方を向いた。
「……線香花火って、最後まで落とさないでいると願いが叶うって。知ってた?」
「知ってはいるけど…。そんなこと無理だわ」
「もし出来たとして。雨苗は何を願う?」
雪音は顔を正面に戻して、少し考えている様子。
史郎も少し考えた。
「……ずっと…」
『ずっと、貴方と一緒にいられますように』
「……俺と、一緒だ」
「よかった」
お互い、顔を花火へと向ける。
ぱちぱちとまだ燃えている灯を、落とさないように2人で慎重になった。
「……やったッ! 落ちなかったよ、俺」
「…………」
雪音の花火はまだ終わっていないようで、更に慎重な瞳でその灯を見つめる。
「……落ちなかった…」
「…やったな。……願い事、叶うといいんだけど」
「きっと、叶うわ……」
夜空を仰ぐ。
空には夏らしい満天の星たち。
「俺、約束するから」
「何を?」
「……雨苗とずっと一緒にいられるように、死ぬまでずっと…雨苗を守るから」
「……ふふっ…」
十分キザな台詞だと自分で気づいたのか、史郎は頬を掻いた。
雪音の方は、微笑みながら史郎の耳元で囁く。
「……好きよ…」
一気に真っ赤になった顔。
顔を背けつつ、史郎も。
「…………俺もだよ」
そう、それはある夏の日の出来事。
++++++++あとがき。++++++++
うわ。何なの!?
さわあまでこんなほのぼのっつーかなんつーかは初めて見たよ!?(黙れ作者)
リベンジで沢村×雨苗また書きたいなぁ……。
本当にいつか。さわいまフィーバーだからさ、今は。(笑)
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