*Night Breeze @* 

 

 

 夜の公園を意味も無くほっつき歩いた。

 ただ、なんとなく暇だったから。

 結構広い公園をぐるっと一周、ベンチに腰掛けようとして、隣のベンチに女が座っているのに気づいた。

「……何だ…?」

 多分、寝ているんだろう。

 規則的に肩が上下に動き、それ以外に体の動きは見られなかった。

「うー、寒っ」

 春といえど、夜は冷え込む。

 ジャケットを羽織っていても、寒さを感じた。

 彼女はどうなのかと、横目で見やる。

 ……同じように、薄い長袖だった。

 しかも、いかにも薄い生地のスカートをはいている。

(あれじゃあ寒いわな……)

 時折身を震わせているのが見て取れる。

 そしてもう一つ、目に留まったもの。

「携帯?」

 ずっと握り締められている携帯電話。

 彼女は眠っているため、徐々に携帯電話が手の中からずり落ち、今にも地面に落下しそうだ。

「ったく……」

 彼は、今にも落下しそうなその携帯をそっと彼女の手から抜き取り、そのまま彼女の膝に置いた。

 ついでに、自分が羽織っていたジャケットもかけてみる。

 自分は何ていい奴なんだ、とか自画自賛もしてみた。

「んにゅ……」

 起きたようだった。

 目を擦りつつ、携帯の着信をチェックする。

「あう、こんな上着持ってきたっけ……?」

「俺のだ」

「……ふえ!?」

 2秒ほど遅れて、彼女は驚いた。

 ひとつため息をつき、彼は彼女の隣に腰掛ける。

「あ、えっとっ。上着ありがとう」

 言って、差し出された自分の上着を彼女に被せる。

「被ってろ。寒いだろ」

「え。でも」

「でもじゃない」

「でもだもんっ!! ……あ、そだ」

 何か思いついたようで、彼に上着を被せ、一緒になって彼女がくるまった。

 要するに、1つの上着を2人で共有する状態。

「よせ。狭いだろ」

「狭くてもあったかいもんー」

「暖かかったらなんでもいいのか?」

「んー、今はね」

 寒いし、あたしとキミしかいないし。

 言って、少し彼に寄った。

 今にも、頬が触れ合いそうな距離。

 そうは言っても、彼と彼女の身長差は結構なもので、軽く頭1つくらい違うように見えた。

「……誰か待ってたのか?」

「ふえ? ……うん」

「……そうか」

 待ち合わせじゃなければ、こんな時間の公園に一人でいることなんかない。

 誰か来るから、一人でも大丈夫だろうと出てきたのだろうし。

「……来るのか? そいつ」

「え、っとー……」

 言いつつ、彼女は携帯の着信をチェックする。

 すぐに、ため息をついた。

「来ないよ」

「メール着てたのか?」

「ううん。元から約束なんかしてないし」

「……じゃあ何で」

 訊ねる彼の言葉を遮って、彼女は立ち上がった。

 途端、つられて彼はベンチから落ちた。

 同じ上着を共有していたのだから。

「うあ、ごめん」

「いや、大丈夫だ」

 ぱんぱん、とズボンについた砂埃を払う。

 それから、少しだけ沈黙。

「……キミは、明日も来るのかな?」

「は?」

「……そだね、来ないよねぇ……」

 彼女は来るつもりなのだろうか。

 寂しそうな顔をして、「ばいばい」と言う。

「来てやるよ」

「ふえ?」

「どうせここで寝てるんだろ。暇つぶしに来てやる」

「……ありがと」

 寂しくひとり、夜の公園で待つ彼女を放っておくことなんかできなかった。

 そんなこと、できるはずがないのだ。

「……あたしはね、いまりって言うんだよ!」

「……いまり?」

「うんっ。キミは?」

「……浅月 香介」

「こうすけ。……こーすけか!」

 幼なじみの彼女以外には、呼び捨てにされた気がしない名前。

 理緒と亮子を足したような感じだな、と香介はぼんやり思った。

「またね、こーすけ。おやすみ」

「ああ。……おやすみ」

 無事に”いまり”は家へ帰ることができるのだろうか。

 少し心配になって、香介は、彼女が見えなくなってからもずっと公園に佇んでいた。

 夜風が冷たい、と感じた。

 

 

++++++++あとがき。++++++++

 

 こーちゃんといまりんの出会い編みたいの書きたかったのに。

 これじゃあ理緒ちゃんだYO!(何)

 伊万里ちゃんと理緒ちゃんって被るよ、キャラ。

 口調とかそっくりだし。

 個人的な書き分けとしてはー……。

 理緒ちゃんは「はううっ」だけど、伊万里ちゃんは「あううぅ」だったり。

 でも混じるんだよなぁ……。(意味無い)

 

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