きみにだけ、かなえてほしいこと。

 

 

 

 

 

「じゃじゃじゃじゃーん! 魔法少女プリチーいまりん参上ッ!!」

 俺の前に、今まで感じたことのないような沈黙が訪れた。

 これを沈黙といわずなんと言うか。

 言い方を変えれば、自分の恋人がいきなりこんな妙な格好で登場したら沈黙せずにどうしろと。

「……お引取りください」

「な、何でだー!! いまりんだぞ!? どっからどう見てもいまりんじゃないか!!」

「それは解る」

 それは解る、がしかし。

 どっかのアニメに出てくるようなフリルとリボンでびらびらのワンピース着て、キラキラ光ってるおもちゃのステッキ持って登場するか。普通。

 しかも本人はノリノリだ。……いつものことではあるけれど、慣れつつある自分が怖い怖い。

「! ……まさかお前、家からその格好で来たんじゃ」

「え? うん。別に変な服装じゃないと思ったし」

「十分変だ!!!」

 こいつは一遍幼稚園からやり直した方がいいんじゃないか、と真面目に毎日思う。

 こいつなら「今日は面接試験だからちゃんとした服着なくちゃ!」と言いつつ、この服を着てきそうだ。恐ろしい。

 ピンクのセーラー服なんて変だ、と常々思ってはいたが、この服よりは数倍、数十倍、いや数百倍は良い。

 ……どこに惚れたんだろう、俺。

「ちぇー……。せっかく衣装調達してきたのに。変だ変だとかこーすけは言うし」

「……どこで調達してきた」

「へ?」

 自分で作ったとは考えにくい。というより、考えられない。

 料理は取り合えず人並みにできるみたいだが、こいつは裁縫となるとボタン1つつけられなかった気がする。

 となると、衣装屋……?

 ……更に恥ずかしいじゃないか。

「友達に作ってもらった」

「友達ぃ!? よくそんな変わったもの作れるな!!」

「ほらほら、あたしの友達だから」

 その一言でものすごく納得した。

 すまん、伊万里の哀れな友達。

「ほらほらっ、そういうワケでこの魔法少女プリチーいまりんの詳細を聞け聞けっ!」

 ……嗚呼、哀れな俺。

 

 

 

「だからね、魔法少女プリチーいまりんは恋に悩める乙女を救うために日夜頑張っているのだよ。あ、もちろん正体はあたしね」

「……で?」

「でねー、今秋実写版でリメイクされるんだよ」

「……待て、リメイクって。それ以前に実写で魔法少女モノって今はいつの時代だ!」

 あの後俺は『実写版☆魔法少女プリチーいまりん』とやらの第1話のストーリーを余すことなく細かく聞かされ、その都度ツッコミを入れてはボケで交わされた。

 時間にして1時間35分43秒。とてつもなく長かった。

「……伊万里」

「何かね、こーすけ君?」

「テレビってな、視聴率3%以下だと打ち切りになるんだぞ」

「何言ってんのこーすけ! 3%なわけないじゃん! めざせ50%だよ!!」

 50%って。日本人口の2人に1人は見てるって計算じゃねぇか。

 伊万里には悪いが、俺は間違いなく見ない。

 いや、実写で放映されるわけがないのだが。

「あのねー……、日本中の恋に悩める乙女をいまりんは救ってくんだけどねー?」

「けど?」

「自分の悩みは救えないんだよ、可哀想なことに」

「……へえ。……で、その可哀想ないまりんを救えるのは誰なんだ?」

 へへーvvと極上の笑顔を伊万里は浮かべる。

 ……ああ、ここに惚れたのかも、しれない。

 そして、くるくると器用にステッキを回すと、俺に向かってびっとそれを向ける。

「いまりんを一番好きでいてくれる人!」

「じゃ、俺だな」

 ま、取り合えず。

 馬鹿なお前も可愛いお前も魔法少女プリチーいまりんなお前もひっくるめて好きでいてやるよ。

 俺にしかお前が救えないなら、な。

 

 

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<あとがき。>

3600番を踏んでくださった神楽絆様のリクエストで、「香介×伊万里でギャグちっくでもってラブラブvv」(←一部接続語が微妙)です☆

……ぎゃああああああああ!!(待って)

だ、誰!? 誰なの、コイツらは!! とカタカタ打ちながら終始思っておりました。(爆)

ちと螺旋から脳が離れすぎました……。(汗)

こんなものでよければどうぞかっさらってくださいませ。

嗚呼、読み返す度に泣きたくなってくる……!!(涙)

 

 

 

 

 

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