民家とバリカン



今日のテン場はゴキゲンだった。
気分のいい寺の裏庭みたいなとこでのたき火&食事。

寺についてから合流した東洋大の男の子2人と、バイクで旅してる男の子1人、計5人での食事だった。


東洋大のホシノとウラベはもともとは歩き遍路をしていて、もう2人、計4人で1ヶ月かけて回っていたが、
途中でホシノが足を壊し、ウラベと2人でヒッチハイクに切り替えたのだ。

なかなか気合い入ってて、出発間際、
品川駅で4人で頭を剃ったらしい。
上下白装束に身を包み、棒を持ち、笠を被り、輪袈裟をかけ、足には足袋。
まだ歩き続けているあとの2人は完璧で
ふんどしまで極めてるらしい。

バイクのカネコは、今時の適当野郎って感じで結局何が目的で旅をしてるのかはわからなかった。
いいヤツだったけど、見た目に合わず小心者な極端な寂しがりやでツルみたがってた。

みか曰く、
「そんなに1人が嫌なら一人旅なんてしなきゃいいのにね。」
確かにそうだ。

3人ともすげー面白くてイイ奴らで、すぐに気が合って仲良くなった。
晩飯を終えて、それぞれの旅の話をしているうちに、カネコが突如言い始めた。
「オレも頭、剃っちまおうかなー」

ノッた。
みんな激しくノッた。

3分後には、ホシノが持ってたはさみでカネコの髪をばさばさと切り始める。
途中でやっぱバリカンがないとダメ、って話しになって、カネコとホシノがそこらにバリカンを買いに行った。
売ってなかった。

カネコ、ピンチ。髪はめちゃくちゃ。
カネコを除く4人のテンションが徐々に下がり始める。
カネコ、ピンチ。

ちょっとかわいそうになったので、こいちが一緒にその辺の民家の人に借りに行ってあげることにした。
カネコは感極まった声で、走りながらバイクに2ケツしてるこいちに
「こいちゃん大好きっ。まじ惚れたっ」
などと大声でほざいていた。
民家のある辺りに降りたあと、やたらとベタついてくるカネコにこいちは静かに言った。
「頼むから惚れてくれるな。・・ぶっ、、あはははは!」
げらげら
二人で意味なくしばらく大爆笑してた。


民家に着いてからは、使える限りの敬語と謙譲語を使った。

1軒目。死ぬほど怪しい目で見られて、退散。
2軒目。ざますオバチャマみたいのが出てきて、退散。
3軒目。呼び出し音を鳴らしても誰も出てこなくて、退散。
4軒目。やっと普通に話を聞いてくれたけど、バリカンは持ってなかった。


「もうしょうがないよ。諦めな。」
カネコに言った瞬間、そこの御主人がでてきて言った。

「近くに住んでる親戚のうちにバリカンあるから借りてきてあげるよ。」
なんていい人でしょう。
あたしの言った適当ウソ修行話を心の底から感動した、と言っていた。
ごめんなさい。。。
でも、なんか話が大きくなりすぎてる気がする。
正直ちょっと疲れてきてた。

いったん寺に戻る。
待ってたみかたちにそのことを告げる。
みんなちょっとビビッた顔をした。
「なんかすごいことになってきてんね。」
みかが言った。
「うん、なんか、借りてしかもここまで持ってきてくれるって。」

少ししておじさんが来て、電気までつないでくれて帰っていった。

やっとこさ。
やっとこさ、当初の予定通り「断髪式」が始まった。

みんなのテンションが熱く戻ってきた。
一瞬沈んだ時間が反動となって、もう誰にも止められないほど、アガッていた。
5人の心はひとつになる。

「剃るぞ!」×5


ホシノが最初のバリカン星人になった。
みるみるうちに髪が落ちていって地肌がのぞいてくる。
みんな一人一人、交代でカネコの頭を剃っていった。

坊主になったカネコ。めちゃカッコいい。

「お前、かっこいいな。」
ホシノがつぶやく。

だって、カネコって俳優の小橋賢児に激似だったから。
(坊主の小橋賢児を想像してください。)

満足気に頭を撫で、頭を剃り終わったカネコは、こいちの方を向き言った。
「次はこいちゃんの番でしょう。」

ノッた。
みんなノッた。
こいちもノッた。

誘惑に勝てなかった。
一度はやってみたかった坊主。
しかも遍路中に坊主、
おいしすぎる

最初ふざけ半分、本気半分で言ってた事態がここにきて本気100%になった。

「あたしもやるー。ホシノ、頼んだ!」

ホシノは叫んだ。
「よっしゃ、こいちゃん!オレに任せろ!」

ただここで悲劇が。


カネコは6mmで剃っていて、最後の余り毛を3mmで剃っていた。

なんと、バリカンの設定を3mmのまま、
6mmに直すのを忘れてこいちの頭を剃ったのだ!!!


かくして金子は坊主に、こいちは
一休になった・・・。


終わったあとのみかの一言。
「こいちゃん、怖い。」

確かに。

坊主と一休には無いようで大きな差があるのです。
黒い青いの差があるのです。

みんな気をつけよう。




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