セメントレス法について

↑腹側から

 

   ↑カップ

全股関節部置換術は股関節形成不全のために関節炎を有する、あるいは根治不能な大腿骨頭の剥離骨折等により、将来変形性関節疾患が予想される大腿骨頭および寛骨臼を除去し、人工関節すなわち金属製の大腿骨ステム、ヘッド、寛骨臼カップに置き換える手術法です。中でもスイスのチューリッヒ大学で開発された Zurich Cementless モジュール式の全股関節人工器官は1993年以来、臨床面で応用され、ライセンス制を取り入れ数多くの成功を見ています。

   ↑ヘッド

日本では2000年12月よりチューリッヒ大学の教授を招き、人工関節を実際に使用した手術を行ってきました。同教授参加のもと、いくつかの動物病院スタッフが一つの症例に取り組み、現在までに80症例を本術式で実施してきています。本手術法は日本、アメリカひいてはヨーロッパにおいて、従来の手術法と比較してより安定した成績を収めています。
この Zurich Cement less の術式・人工器官を使用していく上での目標は、再現可能な外科手法により臨床成績を改善し、そして必要時にはいつでも修正手術を可能にすることにあります。この人工器官は動物の発育・成長と骨の再構成とを両立するので、従来行われている全股関節置換術(セメント法)と比較してより若い幼犬にも適用可能です。

↑ジョイント部

↑手術前。大腿骨頭が寛骨臼から離れています。

↑手術後。寛骨臼側のカップと大腿骨頭の代わりに置き換えられたヘッド。

従来の手術法(セメント法)と新しい手術法(セメントレス法)の違い

 人工関節(プロテーゼ)を生体に固定する方法として、骨セメントを用いる方法と骨セメントを用いない方法があります。セメント法に用いる骨セメントは感染に弱く、手術中に血行性あるいは空気中から細菌がセメントに混入すると人工関節に緩みと痛みを生じます。この感染を取り除くためには、骨を削って中のセメントを取り除かなくてはなりません。また、感染が起こらなくとも術後数年してプロテーゼとセメントの間やセメントと骨の間に緩みが生じ、痛みや後肢の機能不全が起こることがあります。これは犬が運動するとき大腿骨が生理的にたわむのに対してセメントは非常に硬く、このたわみにセメントが同調できないために起こります。この場合の治療は非常に難しく、骨を切開して中のセメントやプロテーゼ(ステム)を除去する必要があり、セメント除去後の機能回復には困難を要します。
 セメントレス法はセメントを用いないため、先に述べたような感染の危険性が殆どありません。感染の可能性は通常の手術と同程度で、また感染したとしても殆どが治療可能です。また大腿骨へのプロテーゼ(ステム)の固定も片側だけに行うため生理的な大腿骨のたわみにも対応できます。またセメント誘発性の合併症の心配もありません。ですが、手術の難易度がセメント法より高く、より正確さを要すること、またプロテーゼが生体の骨によって固定がなされるまで6週間程度安静が必要となります。
 この手術は大変な正確性が求められるため、プロテーゼのメーカーとこの手術の開発者が認めた者にだけ、この手術の免許が与えられます。


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