第81回  日本人の膝はスグレモノ

茜色に染まった空を見ると不思議にいろいろ思い出す。

たとえば、ポルトガルのリスボン。
石畳の急な坂道だらけの異国の首都で、足の不自由な人にたくさん出会った。
ポルトガルで国土の2/3をドライブしたが、
他の町では足の不自由な人を目にした記憶はほとんどなかった。
ヨーロッパの訪れたほかの町でもあまり見かけなかったので、
たまたま偶然なかもしれなかったが、それでもすこし異質に映った。

「どうしてなんだ?」
夫はしょっちゅう首をかしげていたが、わたしも不思議に思った。

「急な坂道の石畳のせいじゃないのか?」
夫は、自分を納得させるようにつぶやいていたけれど、
わたしもそれ以外の答えを見つけることができなかった。

真相はどうなのでしょう。

購読している新聞に桐谷エリザベスさんが書いたエッセイの連載がある。
エリザベスさんはアメリカ人ながら日本文化に魅せられ、
ふた昔ほど前に来日をされ日本男性と結婚をしている。
日本の下町の人情や生活が大好きで、
今でも日本の伝統的な下町の暮らしを楽しんでいらっしゃる女性である。

エリザベスさんは茶道や華道を習ったが膝が痛くなって医者に診てもらった。
その時「これは外人膝だから、お茶の稽古をやめないと、いまに歩けなくなりますよ」
と言われて憤慨したという。
外国人がなまじ日本の伝統文化などに手をだしてと、
皮肉られたと思ったそうだ。

そこで帰国した際に、母国のボストンで有名な専門医に診てもらったところ、
「あなたのはアングロサクソンの膝です」と言われてびっくりしたという。
アングロサクソンの膝関節は前後にしか動かないが、
一方のアジア人の膝は左右にも多少動くので、
正座にも長く耐えられるとのことだった。

へぇー、日本人の膝はスグレモノなんだ。

わたしはそのスグレモノを数年前に転倒して壊してしまい、
今でも違和感の残る膝を抱えているが、正座も以前と同じように可能で、
その機能にはまったく支障がないのでほっとしている。

蛇足ながら、アジア人種の黒髪や黒い瞳は欧米人の金髪や青い瞳に比べて、
遺伝子学的には優勢であると仄聞したことがある。
欧米人がサングラスを多用するのもおしゃれではなく目を保護するためと聞いているが
その割には観光地で見かける欧米人は1ミリでも余計に太陽に肌を晒そうと、
涙ぐましい努力を払っているから不思議である。

それとは反対に、太陽光線には彼らより強いはずの日本人が、
中高年層は帽子を目深にかぶり夏場でも長袖を着込み、さらに手袋まではめ、
完璧に肌を守ろうと努力している姿が見受けられる。

盛夏に長袖までとはいかないけれど、帽子ならわたしもそのうちのひとり。
どうして極端なまでに日焼けしたくないと思うのか自分でもよくわからない。

一方で、今でも若い女性でお金をかけてまで肌を焼く人がいるけれど、
こちらもわからない。

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