第70回  ホストを巡る話題に、世の中が広いと思う時

昼のテレビで、ホストにハマっているという女性を取材していた。

40代のその女性は会社を経営しているというが、
ホストクラブへ通う女性にありがちなブランド物は一切身につけていなかった。
セーターにタイトスカートのその身なりは、むしろ地味な印象を受けた。
しかし、彼女は月に2、3回はホストクラブへ出かけ、
1回に使う額は50万円をくだらないというから、
質素な身なりもそちらへの経費がかかり過ぎるから?

取材のその日、ホストクラブで彼女が席に着くと、
お目当てのホストの他に、数人のホストが席を取り囲んだ。
着席してすぐに1本4万円のドンペリニョンのホワイトが開けられ、
ボトルは数人のホストたちによって瞬く間に空になった。
間髪を入れずにドンペリニョンのピンクをホストから勧められる。
こちらは1本24万円。

ホストたちはこちらもあっという間に飲み干し、24万円の追加オーダーを入れる。
その間に、店の名物のフルーツの盛り合わせ5千円が運ばれてくる。
1時間後に女性の手元に53万円ほどの勘定書きが届けられた。

レポーター。
「1時間で53万円。このお値段を高いと思いませんか」
「でも、まあ気晴らしになりますから・・・」
 女性の口調はすこし重い。

彼女のテーブルの盛り上げ方は、まるでお祭りのノリ状態そのもの。
周囲を常に3、4人のホストが囲み、
ボトルが開けられるたびにホストが声を揃えて乾杯をする。
ボトルが空になると、すぐにホストから追加要請が出る。
彼女にとっての1時間はあっという間の夢の中の出来事のような感覚だろう。

せっかく高額を支払っても、
彼女はお目当てのホストとゆっくり話も出来ない雰囲気である。
他のホストを貼り付けて気勢をあげるのは、
短時間で売り上げを伸ばすための店の方針なのだろうか。

それでも高額を支払い、お目当てのホストに通う女心。
同性でありながら、わたしには理解できなかったが、
店は朝の6時まで満席だとレポートしていたから、
同様な女性がたくさんいるということになる。
ホストクラブに通うために、自分の身を売っている女性もいるというのは、
もはや珍しくはないらしい。

ホストの生活も紹介されたが、2年目の新人ホストの年収は600万円。
彼は5、5畳のワンルームの質素な暮らしであるが、
その部屋には不釣合いなものがあった。
480万円のロレックスの時計。伊豆の別荘の鍵。これらは客のプレゼント。
別荘はマンションスタイルでその価格は2000万円である。

以前のテレビ番組でも、
ホストへの仰天するような高額のプレゼントの映像を見たことがあるが、
銀座のホステスへのプレゼントも同様であるようだ。

わたしは結婚記念や誕生日のプレゼントも無縁の生活を送っている。
プレゼントをしてくれるはずのかんじんの相手が
「我が家のお財布を牛耳っている大蔵大臣はアナタ、
 なんでも自分のお好きなものを買って下さい」
とこちらに下駄を預けてくる。

会計を預かる大蔵大臣としてはかなり複雑な心境になる。
自分の思うがままに使うと後が怖い。
したがって自分のためのプレゼントは躊躇せざるを得ない。
その結果、我が家には家庭内の重大なイベントにも、
プレゼントがもたらされない生活様式が定着してしまった。

そのような身分では、
ホストやホストへの仰天するような高額のプレゼントの世界は理解できないが、
現実には当たり前のように存在している。

このような場合には、やはり世の中は広いと思うが、
自分の理解を超える範疇のものに対する感覚が、そう思わせるのか。

日ごろ、ごく狭い範囲の世間で暮らしている身には、
さまざまな分野で理解できない範疇が広がってきているので、
ますます世間が広く感じられる昨今です。


HOME  TOP  NEXT