第63回 スーパーの肝っ玉母さん

平成6年の法改正で窃盗罪にも罰金刑が課せられるようになったが、
それ以前の窃盗罪の法定刑は10年以下の懲役。

このため、万引など懲役刑とするには重すぎるケースでは
起訴猶予などで対応してきた経緯がありますが、
万引の摘発件数の急増を受け罰金刑を設けて抑止効果を強めることにした。

これまでは、少額の万引きなどを繰り返したケースでは、
犯人を摘発しても懲役刑しか選択肢がなかったため、
検察官が起訴猶予にするケースも少なくなかった。

そのせいか窃盗の起訴猶予率は法改正前の05年では43%にのぼっている。
これでは懲りない面々を増加させるだけであるが、
罰金刑の導入で従来処罰されなかったケースも処罰し、
再犯防止につなげたいとの意向が働いたようである。

子供の万引きについては周囲にも
「ちょっとした出来心」のような甘い認識があり、
かつては学校長からして「万引きくらいで」との問題発言もあった。

川崎の古書店の店長が万引きを追いかけ、
犯人が電車に轢かれて死亡したケースがある。
犯人はまだ中学生だったせいか、
店には「万引きくらいで」という主旨の抗議の電話等が殺到し、
閉店に追い込まれた。

それを報じると今度は励ましの投書が殺到して店長は店を再開したが、
万引きを見つけてもトラウマから注意できなくなり、再び閉店した。

この頃から
「犯罪は小さいうちに芽を摘むと大きな犯罪の抑止に繋がる」という
「破れ窓の理論」を受けて世間の万引きに対する認識も
以前とは変ってきたように思える。

しかし、大人の万引きも負けてはいない。
テレビで、スーパーに常駐する警備員の様子をレポートしていたが、
中高年層のスーパーでの万引きが多いのに驚いたが、内容にも驚く。

警備員の女性の印象は、肝っ玉母さんそのもの。
20年のベテランだから、その道のプロの目は鋭い。
ビニール袋を提げていた男性の挙動不審を見破り、
店の外へ出たところで声をかけるが、
なめられてはいけないと思うのか語調と声色はかなり厳しい。
男性はシラを切り通すが、最後には別室へと連行される。

男性の年齢は70代。
一人暮しを強調するが、ベテランの追及にあって崩れ去る。
近所に住む娘が引き取りに来て涙ながらに謝罪するが、
当人の罪の意識は薄いようだ。
万引きした商品は袋入りの菓子3点、総額にして800円ほど。
孫もいるというが、孫へのおやつなのだろうか?
盗んだお菓子では、孫のその味もさぞ苦いことだろう。 

お次の男性も70代。
店に入ってきたときからセカンドバッグの口を開け、
その口に牛肉のパックをパクリと飲み込ませて捕まったが、
彼は意外に素直に白状した。

この男性は正真正銘の一人暮らしだが、
20年来の別居中の妻がいて引き取りに来た。
彼女は警備員の前で夫に罵詈雑言を吐くが、夫はじっと耐えている。
この屈辱は2000円足らずの豚肉パックと引き換えだが、
別れた妻は「自分に会いたいためにこんなことをする」と言った。
真相はどうなのだろう。

いよいよ真打の登場である。
50代の中年女性だが、彼女はあまりにも大胆すぎた。
大きいビニール袋を万引き商品でパンパンに膨らませ、
なおかつ手提げにも目一杯に詰め込んで、
それを両手にさげたままレジを通らずに店外へ出たところで御用となった。
万引き商品は33点、総計5000円弱だから、
スーパーの万引きは単価が低いのが特徴なのか。

常習犯と見た肝っ玉母さんが問い詰めると、2回の逮捕歴があるという。
「いつ捕まったの」と聞くと「忘れた」と言い
「忘れようと努めた」と涙ながらに訴えたが、
母さんは烈火のごとく怒った。

「そういうことは忘れたらダメだ。忘れたらまた繰り返す。
 過ちを繰り返さないように、決して忘れないことだ」

これ、正論。

主婦は中学生の子供と二人暮し。
警察への引取りも子供が行ったと聞き、
母さんは「子供になんてことをさせるんだ」と、また怒った。
なぜなら、母さんは女手ひとつで二人の子供を育ててきたから。

この主婦だけは常習、悪質とみて警察に引き渡された。
彼女に同情はできなかったが、中学生の子供の存在が心を重くした。


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