第57回 お祭りジャックは嫌い

とくにお祭りが好きというわけではありませんが、
昨年はお祭りに4回出かけた。

4月は地元の公園の桜祭り。
7月は地元の夏祭り。
8月は夫の実家のある金沢の祭り。
その実家の町内の祭り。

それらの祭りで、異変に気がついた。
これまでにあまり見る機会がなかった<よさこいソーラン>という、
若者たちのグループによる群舞をいやというほど見せつけられた。

初めて<よさこいソーラン>を見たときは感動した。
ノリの良い音楽、独特の振りと衣装が醸し出す不思議な雰囲気。
妙に日本人の心をくすぐる<よさこいソーラン>が嫌いではなかった。

日本の祭りでは恥ずかしくて踊る出番はないけれど、
外国でのお祭りでは旅の恥で、すぐに飛び出して一緒に踊るくらい好きであるから、
わたしには<よさこいソーラン>を受け入れる土壌はたっぷりあった。
しかし、この4回のお祭りを経験して、
わたしのよさこいソーランを見る目が変った。

桜祭りの<よさこいソーラン>は2グループだけであり、地元の夏祭りは5、6のグループだった。

金沢の道路祭りのよさこいの出場組数は知らないが、
踊りは2時間は続くとアナウンスがあった。
楽しみにしていた「風の盆」の出番は10分足らずだった。
よさこいの方はいつ途切れるともつかない踊りの列が、
衣装や趣向を変えて延々と繰り出してくる。
あまりのワンパターンに、さすがに食傷気味になり、
数グループを見ただけでその場を去った。

その翌日は、夫の実家の地元の町内の祭りだったが、そこでも<よさこいソーラン>の出番があった。祭りを完全にジャックしていたから、もういい加減にしてと叫びたくなった。

そもそも<よさこいソーラン>とは、なに?

よさこいソーランのサイトによると、
平成3年、高知県出身で当時北海道大学に通っていた大学生が、
高知県の「よさこい祭り」であるチームの踊りに衝撃を受けたのが、
「YOSAKOIソーラン祭り」のはじまり。

本場高知県のよさこい祭りで感動を受けた学生は、
北海道にも「よさこい祭り」のような祭りをつくれないかと、
仲間たちと「よさこいソーラン祭り実行委員会」を立ち上げたとある。

それが今では、日本中の祭りを席巻するほどになった。

発祥の地の北海道での出場組は、今や300チーム以上だそうだ。
ルールまできちんと決められている。

・鳴子を手に持って踊ること。
・曲にソーラン節のフレーズを入れること。
・1チーム150人以下で結成すること(衣装を着た方すべて)。
・演技は1回4分30秒まで。
地方車の大きさは車長、幅、高さまで決められ、
貨物自動車に限ります、とかなり細かい。

同じルールに基づいた同じような音楽、
同じような雰囲気を持つ群舞の登場が300以上とは異常である。

何でもわっと飛びつき、爆発的にヒットする日本ならではの現象であるが、
若者も子どもも一糸乱れない動きとお揃いの衣装で、
その隊列が延々と続く様は、北朝鮮のマスゲームを連想させ、
すこし薄気味悪く感じるほどだった。

目を引くのは趣向を凝らした衣装である。
重ね着した衣装を歌舞伎の早変わりのように、
踊りながらさっと変えるものもある。
衣装代が結構かかるだろうと思いながら眺めていた。

子どもにも人気があるようで、運動会や体育祭、文化祭などで
<よさこいソーラン>を踊る幼稚園や学校がどんどん増えているとのこと。

これは、まるでアメーバーだ。

しかし、真夏の<よさこいソーラン>は過酷だ。
じっとしていても背中に汗が伝う季節に、
凝った衣装を身にまとって激しく統制の取れた動きに従わなければならない。
ひ弱なもやしの現代っ子には、なかなか大変な労苦であるはず。
若者が持て余すエネルギーを、健全なダンスに費やすのは、
青少年の教育の見地からも好ましいが、
昔はそうでも、現代の若者がエネルギーを持て余すなどあるだろうか。

それでも、ゲームや夜遊びでナマった体を
<よさこいソーラン>が鍛えてくれるのではと、
オバサンは期待するけれど・・・・

しかし、困った。

<よさこいソーラン>がそれだけの枠組みの中で繁栄するのは賛成であるが、
伝統のある地域の祭りになだれ込み、
<よさこいソーラン>一色に塗り変えてしまうのは賛成できない。

古くからの盆踊りは誰もが一緒に参加して楽しめるものだが、
よさこいはあくまでも見せる踊り。
その衣装も動きも他を排除して、自分たち仲間だけの世界を構築するものだ。
それが見せるよさこいソーランの良い点であり、欠点でもある。

よさこいが節度を持って地域の祭りに参加することは賛成であるが、
祭りをジャックするような今の状況に嫌悪を覚えるのは、
ヘソ曲がりの性格ゆえか?

さて、今年の祭りはどう展開するのだろう。


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