第53回  全身を磨く前に、脳ミソを磨いたら?

日本の将来に憂いを覚えるのは、
それを担うべき子どもたちに接する大人の態度である。
今や子どもの範となるべき大人たちの生活態度は、
<軽佻浮薄>そのもののような気がしてならない。

名前は忘れたが、60年前に終戦直後の日本を訪れたフランスの知識人が、
「今、世界でたった一つの民族を残すとしたら、それは日本人であるだろう」
と言ったとか、どこかで読んだ覚えがある。

うれしかった。
同時に、空しかった。

終戦直後の様子は写真や映像で見たことがあるが、
東京は焼け野原となり、その跡にタケノコのように林立する掘っ立て小屋の風景。
戦災孤児は浮浪児となり、ボロを身にまとい洟を垂らしながら物乞いをする。
そんな悲惨な状況を、かのフランス人は目にしたであろうが、
それでも「世界で一番残したい民族」と断言している。

彼だけではない。
明治から大正、昭和初期にかけて日本を訪れた知識人たちからも、
日本民族とその文化に対して、驚嘆と賞賛の声が多く寄せられている。
当時は想像もできないほど貧しかった日本であるが、
やせ衰えても骨だけは残っていた。

気骨である。

一方で、世界でも稀なほど貧富の差や教育格差がなく(最近は違ってきているが)
生活水準が高くなった日本に、気骨という言葉が聞かれなくなって久しい。
いつから日本人は浮雲のごとく軽くなってしまったのか。

日本は民主主義の思想を欧米諸国のように血を流して自ら勝ち取ったのではなく、
米国によって押し付けられた。
それがトラウマとなり、
自ら考えるという行為を日本人に放棄させる元凶となったのか。

自ら考えることを放棄した日本人に、
拝金主義や商業主義が攻勢をかけたらどうなるのか。
現在の状況が、それを端的に顕しているのではと思う。

商業主義のターゲットと言えば女性が筆頭に挙げられるますが、
世間は隅から隅まで女性をターゲットにした情報が蔓延している。
それに踊らされる女性のなんと多いことでしょう。

他人の人生にとやかく言いたくはありませんが、
子供を育てるのは夫婦と言われていても、
子供により多く接するのは母親である。
その母親や予備軍の女性たちの目に余る軽佻浮薄が、
次代を担う子供に多大な影響を与えるのは必至です。

エステがブームとメディアが騒ぎ立てると、真っ先に飛びつくのは若い女性。
呆れることに、親の仕送りで生活する女子大生さえいる。
欧米でエステと言えば、上流階級の中年女性が
弛んでダレきった全身をメンテナンスし、
若さを取り戻すための御用達と聞き及んでいます。

それが日本に上陸するなりエステの部分だけがビジネス戦略として一人歩きし、
エステには縁がないと思われる、肌が美しい盛りの若い女性が真っ先に飛びつく。
エステとはどういうものかを自分で咀嚼することなく、
メディアで取り上げるしゃれたライフスタイルを取り入れることに、
優越感や気分のよさを感じているように思えるけれど、
なんとも馬鹿げた現象である。

口を開けば「女を磨いていい女になる」ことが目標のようですが、
いい女とはなんなの?

全身をエステで磨き、化粧のブランドや洋服のブランドに凝り、
似合う似合わないに関係なく流行の髪形を取り入れ、
全身をピカピカに飾りたてるが、頭の中身はカラッポ。
それが、メディアが発信するところの「いい女」なのである。

なぜなら、メディアの「いい女」には脳ミソを磨く項目は登場しない。
ゆえにメディア提供のいい女情報とは自分たちの商売に飛びつく
「いい加減な女」の増産体制を確立させるだけのようである。

日本の若い女性ほど外見にこだわり飾り立てる人種はいないと思う。
若いうちは存在そのものが光を放ち、飾り立てなくても若さが輝きとなり、
誰もが美しく見える年齢である。
しかし、全身ブランドずくめ、芸能人のようなバッチリ化粧では、
お金をかけてせっかくの美しさをわざわざ薄汚れさせている。

いろいろな国を旅して、若い女性を見るとその違いが一目でわかる。
アメリカの若い女性は、ジーンズにシャツスタイルでノーメイクに近いもの。
アクセサリーもあまり飾り立てない。
ときおり濃い化粧でアクサリーをジャラジャラ鳴らしているのは、
流行遅れのパンクのおねーちゃんくらい。
アメリカのテレビドラマの高校生のバッチリ化粧は、
ドラマのお化粧として存在するもの。

ヨーロッパでも同じこと。
ファッションは自分に合ったものを身につけ、お化粧はシンプル。
日本の若い女性のように雑誌のマニュアルメイクで固めた、
モデルのように凝ったお化粧はほとんど見かけない。

日本の若い女性は、親にパラサイトしながら給料はおしゃれに費やし、
セレブな生活の確保に血道をあげるようである。

大金をかけた自称「いい女」の売り込み先はIT長者を狙うが、
その目的はもちろん豪奢生活のパラサイトである。
メディアが発信するところの、若い女性の典型的なライフスタイルでもある。

全身に磨きをかけたい女性たちには、
ついでに頭の脳ミソまで磨くことをお薦めしたい。



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