第49回  我が家のオフレコ発言

オフレコ。

旺文社の新総合国語辞典によると、off the recordの略。
記録外、非公式、公表しないこと、とある。

いつだったか福田さんが官房長官のころ、記者を前にしてのオフレコ発言が、
いつの間にかオフレコでなくなり、外部に漏れて騒動になったことがある。

公表しないことを前提になされるオフレコ発言は、
それだけ本音に近い思いとも言える。

我が家のオフレコ発言とは、ひらたく言えば夫婦の会話である。
食事をしながら見るテレビのニュースや、世間で話題の出来事がほとんどですが、
その発言はおそろしく独断と偏見に充ちているので、公表を憚れるものばかり。

つまり、オフレコである。

これまでの横綱格のオフレコ発言は、
和歌山県で起きた<毒物カレー事件>の論告求刑公判がらみだった。

閉廷後の弁護団の記者会見の模様を見て、
わたしは日ごろから感じていた弁護士という職業について夫に質問した。

「いつも感じるのだけれど、もし弁護士さんが自分の受け持っている被告について、
 明らかにクロと自分にわかっているときも、法定ではシロと言い張るわけ?」

それは今に始まったことではなく、ずっと以前から感じていた疑問であり、
たまたまその日の公判ニュースが呼び水になった。

弁護士が被告をクロと認めた上で弁護士として量刑を軽くするために
法定闘争を展開するのは理解できる。
しかし状況証拠は明らかにクロと認められても、
容疑者が否認した場合は裁判は長引くことになる。
そして弁護士として何度か被告と接見を重ねるうちに、
犯人しか知り得ない話を聞いたりすることがあるかもしれない。
もしかすると、被告から犯行を打ち明けられることもあるかもしれない。

そのような場合に弁護士はどうするのだろう。
法定では相変わらずクロをシロと言い張るのだろうか。

凶悪事件の裁判に係わる弁護士団が、
裁判の不当性と被告の絶対の潔白を強い語調で述べる場面を見ていると、
(この弁護士さんは本当に被告の潔白を心から信じているのか?
 それとも職業ゆえの責務、あるいは己のキャリアのため?)と、
 様々に憶測をしてしまうような印象を持つ場面が稀にある。

米国では弁護士としてのキャリアや知名度のために、
有名事件や大きな事件を利用する野心家もいると聞いている。
わたしの記憶にあるのは、
全米で大いに話題になった<O・Jシンプソン事件>などがそれに当たる。

彼は、妻殺しの罪で起訴されたが無罪判決を受けた。
状況は限りなくクロに近く、ハイウエイを車で逃走して、
パトカーと派手なカーチエイスまでやらかした。
犯人でもないのになぜ逃げるのか疑問に思ったものだが、
米国のアンケートでは大多数が彼を犯人と信じて疑わなかった。

彼が真犯人であるかどうかは<神のみぞ知る>であるが、
辣腕弁護士チームが、世間の注目度の高さや莫大な弁護料と引き換えに、
辣腕を発揮したのは周知の事実である。

弁護士の腕次第ではクロがシロとなったり、
稀にはシロがクロ(冤罪)となったりする場合もなきにしもあらずだから、
とても複雑な思いがする。

そんな思いを巡らせていると、
傍らの夫がわたしの心臓を一突きするようなショックな発言を、
語気荒く投げかけてきた。

「だいたい<シ>のつく職業にロクなヤツはいない。弁護士、教師、医師、代議士」

(<シ>のつく職業の方、ごめんなさい。
 彼は粗忽で単純で独断と偏見のカタマリの人です。
 オフレコ発言の再現に免じてお許しくださいませ)

でも、わたし言っちゃいました。
「アラ、うまいじゃない」

「当ったり前。昔から世間で言われている一般ジョーシキだ」
「へえ、そんなジョーシキがあったの?」

先生、警察官、お坊さんに関しては、
昔から世間でもいろいろ言われているようですが、
偽装事件の「建築士」も<シ>の仲間入りを果たしたようです。

<シ> のつく職業は世の中をリードしていくような立場の人ばかりです。
もちろん、それにふさわしい立派な方もいらっしゃるが、
しかし近ごろの三面記事を賑わしているのは、
確かにこの職業が多いことも事実。

独断と偏見にも一理あり・・・かな?



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