第48回  へえ、へえ、へえ

ある日の読売に、男性のおしゃれに関する記事がふたつあった。
タイトルは「ファッション数々現象」
サブタイトルが<服選びに目覚めた男性>

写真も掲載されていたが、新宿伊勢丹のメンズ館の前に、
バーゲンの初日に長蛇の列をつくった男性たちの姿である。

記事によると、大半が20代の若者で30代のスーツ姿の男性もいた。
中には「ちょっと会社を抜け出してきた」と打ち明ける30代も。

わたしは、もう5年以上も洋服を買っていない身の上なので、
ひたすら、へぇ、へぇ、へぇ。

その男性は季節ごとに平均約12万円の服を買うファッション好きで、
この日の予算は3万円。
最近人気が高まっているブランド、ジョゼフ・オムのパンツだそうです。

「えっ、ブランドの名前がオムツ?」

いくら乳離れができないマザコンの男性諸氏に人気でも、
名前が出来すぎていると思ったら、早トチリのわたしの読み間違いでした。

都内の大学に通う21歳の男子学生は、実家から月約12万円の仕送りを受け、
そのうち4,5万円は服に使うとか。
「へぇ」

「いい服を買うためなら食事を抜くのも平気。好きな洋服を着ていると気持ちがいい」
(その気分で勉強のほうもガンバッテ!)

どこかで聞いたことがあるセリフだと思ったら、
高価な化粧品や宝石に目がなかった母親が、いつも言っていた内容である。
わたしがおしゃれに無関心になったのは、母親の反面教師のせいかもしれない。

芸能人のように、ブランドものスーツを20着も持っている会社員もいた。
そのせいか日本百貨店協会によると、
2003年の全国百貨店での「紳士服・洋服」の売り上げは6241億円。
不況時には真っ先に家計から削られるといわれる紳士服が、
この3年間は6000億円台を保っているようだ。

ファッション界に詳しい流通コンサルタントは
「高級品にお金をかける男性たちが紳士服の売り上げを支える原動力になっている」
と指摘している。

さらに中高年層においても、
以前は奥さん任せにしていた服選びを自分でするようになったとか。

我が家は未だにオクサン任せの時代遅れの身の上ですが、
ともあれ、おしゃれな男性が増えて、
それが景気に貢献しているとはうれしい限りです。

しかし、おしゃれでは先輩格の女性の身でありながら、
わたしが洋服を買ったのはもう5年以上も前というのでは肩身が狭い。

一昨年、エッセイの授賞式に夫婦で招待されましたが、
授賞式の当日、車に乗り込んだわたしを見て夫が言った。

「それ、パンタロンだろ? 20年前に流行ったヤツ」

ナイヤガラの滝のように、ドーンと血の気が引いた。
夫は超、超、超ファッション音痴なのに、
パンタロンの流行が20年前だと知っていた!

まったく流行には無頓着で平気なわたしでも
「アナタにそう言われたら、もうオシマイだわ」と急に弱気になったが、
着替える時間が無くて、車はそのまま受賞式会場の都心のホテルへ直行。

会場で席に付いてすぐに〇BS局を名乗った女性から
「ファッションの番組に出演していただけませんか?」
「はぁ〜?」

かなり熱心にお誘いを受けたが、もちろんお断りした。

流行は繰り返されるとか。
20年前のファッションが目新しく映ったのか?
それとも奇異に感じたのか?

しかし、昨年の受賞式には、また同じファッションで出席した。
主催者が違うし相手が入れ替わっているから平気、というのがその理由である。
この理由はいつでもどこでも使えるから、
洋服を増やす気遣いはいらないことになり、20年が過ぎたのである。

何かの間違いで雑誌のおしゃれというコーナーの取材に応じた時は
前夜パソコンが不調になり徹夜で朝の5時まで奮闘。
そのままお風呂に入り、洗い髪のまま仮眠して、
ジーンズと白シャツ姿で取材に応じた心臓の持ち主です。

いずれにしてもファッションと聞くと、わたしは肩身を狭くして生きている。

他にも男性のおしゃれ関連の記事があり、
タイトルは「化粧品フロンティア」
サブタイトルが<男性のオシャレ心を狙え>

高島屋の日本橋店の6階、紳士服フロアの一角を占める男性化粧品専門コーナー。
若者からカップルの来客で賑わうそのフロアには、
資生堂の男性用スキンケア化粧品「シセイドウメン」が並ぶ。
欧米など22か国で先行発売したブランドを、日本にも本格投入したという。
高島屋での発売後1ケ月の売り上げは、計画の約2倍と滑り出しは上々とのことだ。

「今や男の化粧は英会話スクールに通うのと同じ自分への投資です」と語るのは、
資生堂で男性化粧品の商品戦略を担当する方のコメント。

手足につける700円のクリームを顔に転用してつけている我が身は、
こちらでもまたしても肩幅が狭まった。

日本の化粧品市場は約1兆4000億円で、アメリカに次ぐ世界第二位であるが、
近年は横ばいが続いているようだ。
男性化粧品は2003年度の出荷額が約2100億円で
全体の約15%にすぎないが、未開拓だけに成長の余地があるとか。

こちらでも、やはり男性は景気に貢献できるようですが、
平和な限りでメデタシというところでしょうか。


HOME TOP NEXT