第46回  本物のおねーさま言葉

最近のテレビで、すこし異質な感じの男性美容師を見た。
不自然に日焼けした黒い顔(ガングロ?)
男性ながら女性用の言葉をしゃべり(おねーさま言葉?)
衣装はプレスリーの舞台衣装のような襟を立てたジャンプスーツ(ツナギ?)

彼は芸能界御用達の売れっ子美容師さんのようだった。
都内の一等地にある彼の家は、やはりおねーさま言葉を話す金髪ロン毛の、
テレビに出ずっぱりの華道家の豪邸と同じキンキラの豪邸だった。

この美容師さんもマスコミに売れているのかしら。

いつからか、テレビ界には女性の言葉をしゃべる男性が登場するようになった。
女性が男性の言葉をしゃべるようにもなったが、
こちらは当たり前なのかマスメディアからはお声がかからないようである。

今では女性用の言葉をしゃべる男性がテレビに登場しない日はないくらい。
当初、わたしはすこし奇異な目で彼らを見ていた。
しかし今はもう当たり前になっているから、慣れとは怖ろしい。

夫は偏見の塊の持ち主のせいか、
彼らが画面に登場すると「へっ!」と言ってゴキゲンが悪くなる。
虫の居所が悪いときは、さらなる強烈なパンチを画面に食らわせる。

「なんだ、男のくせに女の言葉をしゃべって。
 こんなのをテレビに出すから、世の中がオカシクなるんだ」

「あら、こんなのじゃないわよ。彼らにはちゃんと特別な才能があるの。
 たまたま女性の言葉を使っているだけよ」

「へっ! 花くらいならオレでも活けられる」

「そりゃぁ、誰だって花くらい活けられるわ。
 問題は才能があるかどうかってことよ」

「じゃぁ、ヤツにはどんな才能があるんだ」
夫が画面をしゃくって見せた。

そこにはカバちゃんとか言われている人物が映っていた。
わたしは彼の名前と顔しか知らなかった。
それもつい最近のことで、早トチリのわたしは申し訳ないことに、
当初は<バカちゃん>と間違えて覚えこんでいた。
いかにもマスコミが飛びつきそうな名前だと呆れたりしていたのだ。

「彼にはどんな才能があるんでしょうね。
 しょっちゅうテレビに出ているようだけど」

画面で見る限り彼は人の良いオニイサンという印象だったが、
さて何者?

夫はいやみったらしく言った。
「女の言葉を使うだけで金モウケができるなんて、日本はいい国だなぁ」

気になったので、カバちゃんというタレントのことを調べてみた。

本名は椛島永次(かばしま えいじ)。
あらいやだ、本名の椛島から取ったカバちゃんだったのね。
「ゴメンナサイ」バカちゃんをもじっているのかと思い込んでいた。

職業は振り付け師、タレントとあるが、
フリー百科事典「ウィキペディア」によると、
<上京した当初は、空港の管制官のアルバイトをしていた>とのこと。

えっ、管制官ってアルバイトで出来るものなの? こわーい。

<1996年、小室哲哉がプロデュースする三人組の
ダンスユニットのメンバーとして「ASAYAN」からデビュー。
結成以前から現在まで、SMAPや安室奈美恵、華原朋美などの振り付け師として
活躍している>

「あらぁ、たいした才能だわ」
この履歴だと、振り付け師としてはトップクラスじゃないの?

<ダンスユニット時代は話すとついオカマのキャラクターが出てしまうため、
事務所サイドから緘口令を敷かれていたようだ。
そのため「笑っていいとも!」にも他の2人のメンバーは出演したが、
本人だけ「風邪」という理由で欠席したほど>

ふーん、なるほど。

それが今では、堂々のカミングアウト出演になっているようですが、
おねーさま言葉だけの御用達ではなく、やはり彼も才能があったのだ。

以前、夫とテレビを見ていたとき、
マツケンサンバの振り付け師の中年男性が踊り方を指導していた。
年齢を超越したスタイルと華麗なダンス・ステップ、
ユーモアを交えた巧みな指導方法に、夫婦で笑い転げてしまった。

「この人はきっと引っ張りだこになる」と夫婦で太鼓判を押した。
事実、彼はその後にあちこちのテレビ番組で見るようになった。
コマーシャル出演も果たしているようである。

その人物もおねーさま言葉だったが、夫はなにも言わなかった。
目の前で彼の才能を検証出来たので、
おねーさま言葉だけの御用達ではないと、納得していたのだ。

カバさんもダンス・ステップでも踏んでくれたら、
偏見の持ち主の夫にも理解できたかもしれない。

しかし、芸能界で売れたいためにわざとおねーさま言葉を使うような
ニセモノが紛れ込んでいるから厄介である。

おねーさま言葉だけで世の中を渡ろうなんて、甘すぎる!


HOME TOP NEXT