おもしろいコラム 除菌流行って寿命を縮める


第35回  除菌流行って寿命を縮める

前になりますが、毎日新聞に興味深い記事があった。

シャープが2002年9月に発表した家電「除菌イオン」の売り上げが好調で、
あまりの人気に前年秋から生産が追いつかない状態が続いているという。

以前から空気清浄機やエアコンにすでに搭載していた、
プラズマクラスターイオンという呼び名を、
わかりやすい「除菌イオン」の呼び方に改めたところ、
空気清浄機の売り上げは前年比の5〜8倍になり、
12月初旬の業界シェアは50%を超えたという。

さまざまな分野で除菌を謳うと、
売り上げが確実に伸びるというデーターも存在する。

ところで同じ毎日の記事にまた興味深い記事があった。
見出しは「20代前半のアレルギー世界でも突出」

国立成育医療センター研究所や東京慈恵会医科大の調査では、
20代前半では9割近くがなんらかのアレルギー予備軍だという。
各国の調査では最高でも6割程度だったというから、
日本の数字は突出しています。

同研究所の斉藤博久部長によると、
「調査した学生は抗生物質の普及などで子供の細菌感染が普及し始めた
 70年代後半の生まれだ。清潔な環境が乳幼児の免疫機能の形成に
 影響を与えているのでは」と、分析している。

日本のアレルギー予備軍の突出した数字に妙に納得したのは、
かねてより日本人は世界一清潔好きではないかと思っていたからです。
海外を旅行するとそれを実感する。

たとえば空港のトイレで出会う外国人の母親は、神経が極太にできている。
自分がお化粧を直している間に、子供がトイレの床にペタリと座り込んで
ハイハイをしていても一向に平気。
お化粧を直し終えると「さぁ行きましょう」と声をかけ、
何事もなかったように子供の手を引いて出て行く。
 
たとえ他人の子供でも、わたしは「きたなーい」とぞっとする。
日本人の大抵の母親は自分の子供が洋服をモップ代わりにして、
トイレの床を掃いている状態を目にしたら、それこそ目を吊り上げて叱ると思う。

バックパッカーの若い女性は、リュックをトイレの個室の中に持ち込んだ。
一人旅なら仕方がない行為ですが、彼女は個室に持ち込む前からすでに、
トイレの床に置いた状態のリュックをズルズル引きずっていた。
当然、トイレの個室の中でも床にそのまま置いた状態。

わたしなら気持ちが悪いから、無理してバッグをかける釘に吊そうと試みるか、
それが無理なら女性専用においてある容器の蓋の上に
トイレットペーパーを敷いてから置くでしょう。
たとえそれが無駄な抵抗だとしても、
自分の気持ちの中では床を引きずってトイレ掃除に協力するよりは、
少しはマシだと思うから。

列車で乗り合わせた外国人旅行者は、列車のテーブルの上に直に置いたパンを切り、
リンゴは洋服の胸の辺りでちょっとこすってそのまま齧る。
映画でも同様なシーンを見ることがある。

どうも外国人は果物を洗って食べるという観念が欠けているように見えます。
 
わたしは外国の市場で果物を買って食べるのが好きでも、
洗わないと食べられないから、公園の水のみ場を探して苦労することになる。
もちろん日本人でも、そのまま齧る人はいるだろうけれど、
洗って食べるのが一般的だと思っている。
そういうところが、日本人の清潔好きを現しているような気がする。

視聴しているテレビ番組に、オーストラリアの子供たちの授業風景が登場する。
彼らは靴をはいたまま絨毯の上で腹ばいになって絵を描いたりする。
 
「あーあ、外を歩いた靴で歩き回った絨毯の上に腹ばいになって」

わたしは、こちらでも気になってしょうがない。
 
映画でも同様。
ヒロインがシャワーを浴びた後に、
髪を拭きながら裸足のまま絨毯の上を歩くシーンが登場する。
あれっ? そこは、さっきまでハイヒールで歩き回っていたんじゃないの?

以前から
「絨毯の上を靴で歩いて生活する外国人は、シャワー後の濡れた足でも
 靴を履くのだろうか? 気持ちわるーい」と思っていた身には、
 それなりに納得した場面ではあります。

そういった日本人の潔癖さが免疫機能に影響をもたらし、
アレルギーの予備軍の製造に関わっているとしたら、
清潔好きも考えものということになるのでしょうか。

解剖学者の養老孟司氏が新聞のエッセイで述べている。

「ヴェトナムの田舎は必ず蚊帳がある(略)蚊が媒介する病気は必ず残っている(略)
 若い人は用心するであろう。食物で感染する肝炎にしても、
 今の若者より私の方が大丈夫だろうと思う。
 昔の生活で免疫ができているはずだから・・・」

若者の社会環境の無菌状態は良くないけれど、
衛生上の無菌環境も問題があるようです。


HOME TOP NEXT