おもしろいコラム When A Man Loves A Woman(男が女を愛する時)


第25回 When A Man Loves A Woman(男が女を愛する時)

外国旅行中にちょっとした時間があると、
ホテルや宿ですぐにテレビのスイッチを入れる。

テレビは便利である。

言葉は理解できなくても、画面を眺めているだけでけっこう楽しめる。
そのうえ他国のテレビ・コマーシャルは、言語が理解できなくても、
宣伝内容のおおよその見当がつき、文化度や国民性をウオッチングするのには
うってつけです。

ところが、自分の国のコマーシャルはどこかおかしい。
言語はちゃんと理解できるのに、
かんじんの広告の内容がすぐには理解できない場合が多い。
時には最後までわからないのもある。

ヘンな話。

広告業界の仕組みはまったくわかりませんが、
広告内容が直接的か間接的かの違いなの?

つまり他国では、宣伝したい商品や企業名等の対象を前面に打ち出し、
その効能や訴えたい事柄をズバリと登場させる直接手法が主流のような気がする。

日本は、自己主張をうとんじる国民性ゆえか、
宣伝対象をあからさまに打ち出すことを控えて、
感性に訴える傾向が強いのでしょうか。

対象そのものを前面に打ち出すよりも別の事柄を引き合いにだし、
そのイメージ効果を商品に結びつける手法が多用されているように思える。

どちらが良いか好みの分かれるところですが、
わたしのように商品名や企業名、人物等の名前を覚えるのが苦手な人種、
言いかえれば記憶力が劣っている者への効果のほどはどうなのでしょう。

目を奪われる素晴らしい風景
効果的に使われた楽曲
インパクトの強い演出

これまでの経験からすると、常に記憶に優先されるのは
主役の商品よりも脇役の方が多いとの印象がある。
結果として、イメージ効果を高めるための背景の存在が印象に強く、
主役であるべき商品名や企業名はすっかり忘却の彼方に葬り去られている。

その何よりの証拠があります。

わたしはコマーシャルを見て対象商品を買い求めた覚えは一度もないけれど、
背景に使われていた曲のCDを3度ばかり買いに走った。

まずは、ルイ・アームストロングの「この素晴らしき世界」

昔から大好きな曲なのに出不精で買い物が苦手のわたしの性癖で、
長い間購入する機会を失っていた。
しかしコマーシャルのバックに流れたときは無性に手に入れたくなって、
すぐに買いに走った。

お次は「「シー・オブ・ラヴ」

アルパ・チーノ主演のラヴ・サスペンス「シー・オブ・ラヴ」の中で、
効果的に流れていた45回転盤のオールディズのサウンドで、
たちまち虜になった。

こちらも、すぐにでも手に入れたかったのに、買いに行く手間を惜しんでいた。
それがコマーシャルのバックに登場したときはなぜか労を取る気力が湧いてきて、
翌日には手に入れることができた。

一番のお気に入りは「When A Man Loves A Woman(男が女を愛する時)」

コマーシャルのバックで初めて聴いたとき、即座に虜となった。
翌日買いに行くつもりが、曲のデーターが何もわかっていないので当惑した。
もう一度コマーシャルで確かめてと思っているうちに、
なんのコマーシャルだったかを忘れてしまい、焦った。

その後、コマーシャルにめぐり合うこともできなくて、
しばらくたったある日の深夜テレビで、
奇跡のようにその曲が耳に飛び込んできた。
目が画面にくぎ付けになったけれど、例のコマーシャルではなくて、
数分間だけ曲を紹介する音楽番組であった。

30歳代と思われる長い金髪の素敵な男性が熱唱していた。
軽い風邪でも引いたような声質がとてもセクシーであるが、
気のせいかコマーシャルのバックで流れていたものとは
歌い方も声質も違って聞こえた。
しかし、興奮していた身にはどっちでもよかった。

マイケル・ボルトン。

絶対に忘れるはずのないヴォーカリストの名前を、
何度も脳裏にしっかりと刻みつけた。

翌日。

わたしはCDショップの店先で若い店員の男性を大いに悩ませることになった。

「お客さん、曲のタイトルは?」
「テレビのコマーシャルで流れていた・・・」

「なんのコマーシャルでした?」
「・・・・・・」

「ヴォーカリストの名前は?」
「・・・・・・」

「レーベルは?」
「・・・・・・」

そこで、わたしは音程もあやふやなメロディを必死になって口ずさみ、
あれこれさんざん苦労した末に「たぶんそれは<男が女を愛する時>でしょう」
との結論を得た。

さらに、彼は続けた。

「でも、お客さん、パーシー・スレッジとマイケル・ボルトンのどちら・・・」
「マイケル・ボルトン!」

わたしは絶叫した。

後にCDに添付されていた解説書で知ったのですが、
コマーシャルの方の歌い手は元祖のパーシー・スレッジだったが、
わたしはとっくにマイケル・ボルトンにイカれていた。
パーシー・スレッジはすでに故人となっていたが、
マイケル・ボルトンのリメイク盤を聴いた彼の奥様は絶賛したそうである。

その後は擦り切れるはずのないCDを擦り切れるほど聴き、
記憶力の悪さと格闘しつつも
「When A Man Loves A Woman」を英語の歌詞で歌えるまでになった。

コマーシャルの威力って、やっぱりすごい!?



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