おもしろいコラム あれ、それ、これ


第24回  あれ、それ、これ

(マイケル・ジャクソンさんは2009年6月25日死亡。
心よりご冥福をお祈りします。)

マイケル・ジャクソンは男児虐待の容疑者として逮捕され、
世界中の人々の注目を浴びたが、その後に無罪を勝ち取った。

起訴されたことが報じられた第一報のころのアメリカのニュース番組は、
イラク報道が霞んでしまうくらいのフィーバーぶりだったと聞いている。

「コレちょうだい。あ、アレも。あと、ソレね。あ、コレは買ったっけ?」

これだけでピンとくる方は、相当なマイケルのファンである。
これは2003年2月24日に日本テレビが放映したドキュメンタリー、
「マイケル・ジャクソンの真実」に登場したときの、
マイケルのすさまじいまでのショッピングシーンである。

マイケルのショッピングがどのくらいすさまじいものか・・・。

巨大なリムジンで、ラスベガスのアンティークショップに乗りつけ、
「うん、このお店大好きさ」と言いつつ、
店に入るなり冒頭のセリフを連発した。

品物をたくさん買うという意味での「あれ、それ、これ」なら、
そこらのショッピング狂だって引けをとらないでしょう。
しかし、マイケルのアレが6000万円以上の壷、
ソレが1200万円のテーブル、コレが数百万円の小物となると、
のけぞってしまう。

彼は、階段を降りかけて壁にあった絵を見るなり、
「いい絵だね。じゃあコレも」と手当たり次第である。

マイケルはそれらを手に取ってみたり、触れたりするわけではない。
ただ店の中央に立ち、店内を眺め回してから視野に入ったものを矢継ぎ早に指すか、
歩き廻りながら目に触れたものを「コレも」と一言で片付ける。
その様子からはショッピングを楽しむという雰囲気は少しも感じとれなかった。

マイケルはこの店がお気に入りらしい。
「アレは前に買ったよね?」とのセリフも聞かれた。

この店はアンティークを扱っていても、
店構えは近代的な金ピカの超豪華な感じである。
支配人か経営者らしい中年の男性は、パリッとした黒スーツ着用のスタイルであり、
一見すると高級ホテルの支配人のような印象を受ける。

その彼に取材記者が質問した。

「すごい買い物ですね。総額はいくらくらいですか?」
「それはちょっと」

彼は言葉を濁した。

だが「あれ、それ、これ」の総額は間違いなく億を超えている。

さらに記者が「マイケルだけでこの店はやっていけるんじゃないの」と突っ込むと、
「はぁ、それは・・・」と、こちらの質問にも言葉を濁したが、
ホテル支配人風体の彼が、揉み手をしていたので驚いた。

時代劇のシーンで、悪徳商人が象徴的に見せるちょっと卑屈な感じの揉み手は、
実際にはあまり見る機会はないけれど、アメリカ人の彼が演ずるところを見ると、
揉み手は万国共通のものなの?
彼の様子からは、無意識にしていたように感じられたけれど。

今回の店に限らず、マイケルの常軌を逸したようなすさまじい買いっぷりは、
すでに伝説になっている。
 
以前、マイケルが親友のエリザベス・テイラーさんに、
億単位の価格のダイヤモンドをプレゼントしたと報じていた。
友人にそんな途方もないプレゼントをするものだろうかと疑問に思っていたけれど、
今回のドキュメンタリーでそれが彼にとっては普通の行為であると、
理解できた。

マイケルのドキュメンタリーを見て、子供時代における生活が、
その後の彼の人生に深く関わっているのではとの感想を持った。
このときすでに40歳は越えていたはずのマイケルの理想は
ピーター・パンである。
端的にいうと大人になることを拒否することである。
一時期、日本でもピーター・パン症候群なるものが話題になったけれど、
今はどうなのでしょう。

マイケルは5歳のころから舞台に立ち、ショービジネスの世界で揉まれて育った。
画面の彼は悲しげに言った。

「子供でも夜中まで踊っていたんだ。夜中までだよ、子供なのに」

彼は、さらに続けた。

「スタジオの外ではみんながボールで遊んでいるんだ。
 ボクもみんなと遊びたかった。ほんと遊びたかったんだ」

12,3歳当時のマイケルのお小遣いは、なんと7200万円!

「そんな大金で何を買ったの?」
「うーん、お菓子とかそんなもの・・・」

映像から感じるマイケルは、フアンに対してとてもやさしい印象を受けた。
彼のメイク係りの女性はもう20年以上も担当しているというから、
きっとスタッフにもやさしいのでしょう。

わたしはマイケル・ジャクソンの曲やダンスが好きだったが、
それ以外に関しては風変わりな芸能人との印象が強かった。
しかし、今回の番組で彼のこれまでの奇矯な行動を、
少し理解できるような気がした。

彼の一連の行動は、
幼児期から今日まで子供らしい時代や私生活がなかった
異常な背景が生み出した結果ではないかと解釈すると、
それなりに納得できるものです。

編集された映像の中ですべてを読み取り理解するのは難しいけれど、
すくなくともわたしの目には、マイケルは傷つきやすい子供の心を
未だに抱え込んでいるらしいと映った。

子供時代の過ごし方が、
いかにその後の人生を変えてしまうかという意味に於いても、
「マイケルの真実」は興味深い番組であった。

その後、我が家では夫と妻による「あれ、これ、それ」遊びが流行った。

「えーと、わたしは、あれ、これ、それがいいわ」
「オレは、これ、そっちと、あっちだ」

夫婦で適当に空間を指しては、マイケル仕様の模擬ショッピングをしたい放題。

「でも、こんな買い方で楽しいのかしらね」
「知らん! お金そんなに持ったことがないからわからん!」

(あれ? まさか遠まわしのお小遣い賃上げ要求?)

やぶへびだぁ〜


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