第98回  乙女の猛特訓

テレビで、女性自衛官の特訓のドキュメンタリーを見た。
女性自衛官の存在は知ってはいたが、
その実態を見るのは初めてなので興味深かった。

今や女性自衛官の職種も、パイロットから船長、看護婦、
政府高官の専用機に搭乗するフライトアテンダント等多彩である。

男性の部下に囲まれた女性船長さんは、女優さんみたいに美しい人である。
いや、きりりとした容姿は今の女優さんには見られないそれ以上の美しさだが、
彼女の自衛官志望の動機が泣かせる。

彼女が女子大2年生のとき湾岸戦争が勃発した。
その様子をテレビで眺めている自分は、
親から仕送りを受けているのんびりした身分だった。
なにかをしなければといても立ってもいられなくなり、
ついには女子大を中退して防衛大学に入学したというから、
美しい顔からは想像できない、なかなかの直情型行動派である。

艦長になる日も近いと言う30代の彼女には同じ自衛官の夫がいるが、
彼女が船長としてひとたび演習航海に出ると2カ月は帰ってこられない。
普段でも夫と会えるのは2〜3週間に一度というから、
かなり厳しい職場環境である。

パイロットになった女性の志望動機は、
自衛隊の難民、被災者の救助に憧れていたとのこと。
彼女は東ティモールで念願の救援活動に当たった。
女性パイロットが難民救援活動にあたるため海外まで飛んでゆく。
感嘆のため息が漏れた。

見た目は女子高生のような面立ちの彼女が、
大きな飛行機を操縦して被災地へはせ参じた。

すごいもんだ!
かっこいい!

彼女は、念願の救援活動ができてうれしかったと満足そうだったが、
その笑顔は輝いていた。

隊員のアフターファイブの様子も映し出された。
制服を脱いで鮮やかな口紅を引き私服に着替えてゲートを通り過ぎる女子隊員は、
どこから見ても普通のOL風。
その彼女がOLではないとわかるのはゲートを通り過ぎる一瞬、
ゲートの男子隊員から挙手を受けるときであろうか。

そして彼女が向かった先は、どこでも見かける居酒屋。
店の中はほとんどが自衛官の男女で占められている。
ビールを一気にあおる若い女子隊員の光景は、
傍目にはまったく普通の若い女性と変わりがなかった。

テレビ番組の見所は、新入女子隊員の4カ月の特訓模様である。
彼女たちの儀式はまず髪を切ることから始まるが、
全員が坊ちゃん刈りみたいなヘアスタイルに調髪される。
古くから髪は女性の命とされているが、
まずは女性を断ち切る洗礼に見舞われるわけである。

それから全ての生活が号令、点呼で統制され、駆け足、腕立て伏せ等の
体力つくりの特訓が始まる。
甘い世界にどっぷり浸かっていた身に、いきなりの猛特訓は相当に堪えるようである。
挙手は手の先がおどおどした感じで一向にサマにならなくて、
教官も女性であるがなかなか厳しく、頭をパチンと殴られる隊員もいる。

体力がついてくると、4キロの銃を斜めに持って駆け足が始まる。
身長の半分を占めるほどの重い銃身を抱えて走る乙女らの足元は、
なんだか危なっかしくてなんとも頼りない感じである。
戦争映画の場面に良く登場する匍匐の訓練もある。
銃を持ちながら腹ばいになって前進する、
あのお馴染みのきついスタイルである。

訓練の総仕上げは各班に分かれてのレガッタ。
つまり、舟漕ぎ競争。

ボート漕ぎは全員の息が合ったオール捌きが優劣を決定するが、
練習中のある新人隊員のオールはどうしても遅れがちになる。
彼女は最年長の26歳である。
当然のことながら彼女がいる班の記録は不振つづき。
彼女は落ち込み涙ぐみながらも班に迷惑をかけまいと、
わずかな自由時間に黙々と体力つくりに励む。
そして競争日の当日。
彼女の努力は実り、オールは見事に班と一体になり二位の成績を勝ち取った。

やがて晴れの訓練卒業日。
厳しかった教官が必死に涙をこらえながらも胸を張り、卒業生を送る言葉を述べる。
訓練生は涙、涙、涙のあと、帽子を高く空中に投げる儀式で幕が下りる。

そこにはブランドや茶髪には縁遠い、もうひとつの青春像がありました。

感動をありがとう、女性自衛官!

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