ネット姫のつぶやき爆弾 辛口コラム


辛口コラム 第251回 アホウ鳥に軽蔑される、アホウな人たち

最近のNHKは若い視聴者を取り込もうと躍起になり、
民放とほとんど変わらない番組内容にいそしんでいますが、
さすがNHKと言わしめる良質のドキュメンタリーが残っているのが救いです。
すこし前になりますが、7月26日(日)に放映された、
NHKスペシャル「小笠原の海にはばたけ〜アホウドリ移住計画」は素晴らしい内容でした。

番組の紹介記事です。
特別天然記念物アホウドリ。日本でしか繁殖しない希少な渡り鳥で、噴火による絶滅の危機から救おうと前代未聞の計画が進んでいる。火山島の伊豆諸島・鳥島から、安全な小笠原の聟(むこ)島へヒナを引越しさせ人の手で飼育。そこに新たな繁殖地を作ろうというもの。前例のない試みは全てが手探り。たび重なる悪戦苦闘の末、ついに2世誕生が確認された。人とアホウドリの挑戦を8年にわたり密着。波乱万丈の命のドラマを描く。

番組内容を読みながら、ふと気がついきました。
かなり前に、アホウドリの移住計画があるというドキュメンタリーを見た覚えがあります。
それを思い出したのは、聟(むこ)と読む漢字が珍しく印象に残っていたから。
今回のドキュメンタリーが8年前から続いているものと知り、感動しました。

移住作戦は絶海の孤島を思わせる厳しい環境で、
アホウドリのひなを捕まえて箱におさめて背中に背負い、一羽一羽運ぶ。
岩場の足元は歩きにくく、綱を張って崖のようなところを伝い降りる場面もあり、
鳥を助けるために人間が犠牲になったら辻褄があわないなあと、ハラハラしました。

アホウドリのひなは親に似て大柄で、人間が近づいても怖がりもしない。
キョトンとした表情で抱き抱えられおとなしく箱におさまります。
その様子がとても愛らしく「可愛い」を連発しながら見ていました。

無事に移住してからが大変です。
本来は親が噛み砕いてドロドロにして与える餌を、
人間が粉砕して太いチューブを喉に差し込んで注入する。
しかし、注入を終えて手を放してやると、すぐに吐き出してしまう。
人間の手による餌の注入は、
親鳥の愛情のこもったくちばしで器用に飲み込ませるのとは
わけがちがうからでしょうか。
その失敗から試行錯誤を積んだのち、ようやくひなは成長し、
無事に初飛行の時を迎えます。

このドキュメンタリーを見ながら、野鳥の保護を通じての命の大切さ、
大自然の中で人間も他の動物も生かされていることを知ることになりますが、
アホウドリの移住計画に汗を流すなんてアホウではないか、と思う人たちが確実にいます。
特に、昨今の「効率主義、経済優先」を唱える人たちにとっては
まさしくアホウと思えるものでしょう。

最近、国立大学に教員養成系や人文社会系の学部・大学院の組織見直しを求めた
文部科学省の通達がありました。
「特に教員養成系や人文社会科学系の学部・大学院については、
組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めること」としています。

京都新聞の記事からの引用。
<人文社会系が標的になった背景には経済界の意向が強く働いたとみられている。企業の競争力強化には、理系や実践的な知識を身に付けた人材が必要という考え方だ。京大の山極総長は記者との懇談で「大学は今すぐ役立つ人材でなく、未来に役立つ人材を育てるのが使命。人文社会系は教養として重要だ」と力説。多様な知識を身に付けた学生を送り出すためにも、人文社会系は不可欠とする持論を展開した。

滋賀大の佐和学長は「政府の産業競争力会議に入っている財界人や学者は、人文社会系の教育が産業振興に貢献していないと考えている」と指摘する。世界の大学ランキングで上位に入る英米の大学で人文社会系の教育研究が活発なことを挙げ、「欧州では人文社会系の学問は存在感がある。批判精神のある人間を育てるためだ。国が大学のランキングを上げたいなら、人文社会系にこそ力を入れるべきだ」と訴える>引用終。

教育の世界でさえ効率主義を貫こうとしている文部科学省の通達は、愚かに尽きます。
欧米の学生に比べ、自分の考えを述べたり批判精神が軟弱の印象が拭えない日本の学生に、
今以上に考える能力を失わせる環境作りとは。
欧米では高く位置付けられている教育内容が、
日本の教育行政はムダと捉えて切り捨てる浅はかさ。

このような事を考えつく人たちは、命を助けたアホウドリにさえ、アホウと軽蔑されても文句は言えないでしょうね。


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