コラム 第247回 妄想でスッキリ

わたしのお散歩は、364日は楽しく平和に幕を降ろします。
でもたった1日、昨日だけは例外でした。

河川敷は、すでにブルー・ベルベットのような薄い闇に包まれていたので、
ワタクシは足元に注意を払いながら、それでも急ぎ足で歩いていました。

そのとき、ミャーミャーと聞き覚えのある、ノラチャンの鳴き声が。
足を止めてキョロキョロすると、薄い闇の向こう岸の斜面に、
トラネコチャンがぼんやり見えました。

「あらぁ、どうしたの?」

小さな川は干上がって、川床に水はありませんでしたが
ちょっと湿っているようでした。
とりあえず近くに行こうと、足で草の葉を探りながら、
注意深く川床に足を這わせたそのときでした。

「オイ、そっちに行くな、そこにカモが眠ってるんだ!」

すごい威嚇調子の大きな声がいきなり飛んできたので
心臓が爆発しそうになりました。

「あら、ごめんなさい、カモが眠っていたのね」

わたしは、慌てて川床から足を引き上げました。

少し離れた場所に、帽子をかぶったジイサマのシルエットが見えました。
ジイサマは「なんて女だ!」と捨て台詞を投げてよこしました。

自転車を引いて夕闇の河川敷をウロウロしている人ですが、
きっとカモの餌やりさんでしょう。

ノラチャンはミャーミャー鳴き続けていますが
ジイサマの手前、そこを引き上げなくてはなりません。

心を残しながらその場を離れましたが
心の悔しさはグズグズと居残りました。

ワタクシはカモが眠っていることをまったく知りませんでした。
それをいきなりあの言い方はないでしょう、何様のつもり?
なんだか無性に腹が立ってきました。

でも、たとえ知らなくても、
カモの安眠を妨げようとしたワタクシが悪いのです。
だから素直に謝りました。

でも、相手を間違えたようです。

ジイサマではなく、カモちゃんに謝るべきだったのです。

それが、クヤシイ!

ジイサマの言い方は最悪でした。
もっと、柔らかく言うことができないの?

そこでワタクシの妄想はたくましく発展しました。

きっと、アナタは家では孤立しているタイプね。

家庭内では昔からずっと専制君主制を敷いて、イバリ散らして
ツマや子供を、自分の奴隷のように扱ってきたんでしょ。
子供が独立したら、家に寄り付かなくなったのね。
オクサマと子供たちは、内緒でこっそり外で会ったりしているのを
アナタも知っているのね。

定年退職後のあなたには誰も寄り付いてくれないし、
オクサマが年金改正法の施行を待ち焦がれていたこともわかったし、
だからカモに餌でもやって、相手にしてもらうしかないんでしょ。

それはね、やさしさでも親切でもないの。
アナタは、自分を頼ってくる所有物が欲しいだけ。
どこまでいってもアナタは自分本位な人というわけよ。

本当にヤサシイ気持ちでカモに餌をあげる人なら
ニンゲンにも同じようにやさしくできるはずでしょ?
そういう人は、ワタクシにあんな言い方はできないはず。

カモちゃんだって、ちゃんとその辺の事情はわかっているの。
<動物的なカン>てよく言うけれど、彼らはまさしくその動物だから。

「カモはオレを待っていてくれる」なんて、勘違いはおやめなさい。

「近ごろは、ニンゲンの方がネギを背負ってくる」

カモちゃんたちはそんな風に噂しているのよ。
それも知らないで、お気の毒さま。

いやなことがあったときは、ワタクシは妄想を駆使します。

これですっきり!

誰にも迷惑はかけないし、お金もかからなくて、そのうえスッキリ。
精神衛生上もとてもよろしくて、座禅とフィットネスへ通ったみたいな心身に。

あなたも妄想をおひとついかが?
でも、変なのはダメよ、ダメダメ(古い?)


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