コラム 第243回 フィンランドの演歌 

ある授賞式のパーティに出席しました。
パーティは立食スタイルで、料理がおいしいと評判の場所だったので、
食いしん坊のわたしは大いに期待して出かけた。

その席上で、フィンランド大使館に勤務する素敵な青年外交官が、
自国の受賞者の付き添いでいらしていたが、
隣り合っていた彼とお話をする機会がありました。
見事な出来映えの料理を横目に、そちらが気になったけれど、
彼の話の内容は大変興味深く、
話し込んでいるうちに食い気の方はいつの間にか引っ込んでいました。

彼は前年の初夏に日本に赴任してきたばかりだというのに、
日本語がかなり流暢でした。
大学で学んだという。
彼に日本のカルチャーショックをお聞きしたかったが
「日本の印象は?」「日本の食べ物はお口に合いますか?」など、
ありきたりな質問をするのは野暮かもしれない。
まだフィンランドへは行ったことのないわたしですが、
(その後バルト三国へ行く際に利用した便は、フィンランド経由でした)
話題はいつの間にか旅の話になり、ポルトガルについて話が弾んだとき、
ふいに質問が口をついて出ました。

「ポルトガルには『ファド』フランスには『シャンソン』
日本には『演歌』という民族を代表する音楽のジャンルがありますが、
フィンランドのそれにあたるものは何ですか?」
彼から返ってきた答は意外でした。

「タンゴです」
「まあ、タンゴ!」
「ええ、タンゴです」
「フィンランドで?」
「はい、フィンランドで」

彼は、ちょっといたずらっぽく笑った。
わたしは自分の質問が正確に伝わっているかどうかが気になり
「タンゴですか?」と重ねて念をおしたが、彼の返事は変わりませんでした。

わたしがあまりに意外な表情をしたせいか、
彼はもっと驚かせてやろうと思ったのでしょうか、
さらにいたずらっぽく意外なことをつけ加えました。

「コーヒーの消費量は、世界で一番ですよ」
「ええっ! コーヒーが?」
「はい、コーヒーです」

彼は、わたしの驚きぶりがまたしてもお気に召したらしかった。
コーヒーの消費量の世界一がどこであるか、わたしは知らない。
それでも予想できそうな国の名前くらいは、いくつか頭に描くことはできましたが、
フィンランドは絶対に思い浮かばなかった名前です。
それほど意外な取り合わせに思えました。

その後、彼が一枚しかないと言っていた「フィンランドのタンゴ」のCDが
「フィンランドの音楽」と書かれた二冊の書籍と共にわが家に送られてきました。

すぐに聴いてみました。
なるほど、リズムもメロディーも紛れもなくタンゴ。
それは情熱がほとばしるアルゼンチン・タンゴでもなく、
すこし洗練されたコンティネンタル・タンゴでもなく、
まさしく「フィンランドのタンゴ」でした。

 ※これが辛口コラム? なんて突っ込みを入れないでね。
  怒ってばかりいるとストレスが噴煙をあげて、冨士山より先に爆発しそう。
  今年はたまには穏やかなコラムもお読みいただけたらうれしく思います。


HOME  TOP  NEXT