辛口コラム 第239回 世界に通用しない日本のスタンダード

古い話になりますが、
毎日新聞のサンデー時評に岩見隆夫氏が大宅壮一氏の没後三十年に寄せて
評論家の大宅壮一氏のことを書いていますが、以下はその内容の一部です。

「<一億総白痴化>は大宅さんのヒット造語で、いまも生命力を保っている。テレビ批判ではきまってこれが使われる。造語のきっかけは早慶戦だったという。日本テレビが〈何でもやりましょう〉という番組を作り、早慶戦の早稲田の応援席でだれかに慶応の旗を振らせ、それを映した。大宅さんが番組を見ていて、「なんてバカらしいことをやっているんだ」と怒り<一億総白痴化>が生まれた、(中略)これは四十数年も昔の話だが、テレビのバカらしさ加減がその後薄らいだとは到底思えない」

薄らいだどころかますます白痴化は激化の一途をたどり、
影響を受ける若者や子供たちの思考能力の停滞に拍車がかかり、
低脳化の洗脳に加担しているようにも思えます。

この手の話で思い出すことがあります。
中国の西安における中国学生のデモの原因も、
まさにそのような状況を反映した出来事でした。

当時の読売の記事に、
中国西安市の西北大学で日本人留学生らが文化祭で演じた寸劇に反発した
中国人学生多数が謝罪を求めるデモ行進をしたとあります。
記事を半ばまで読み進み、また過去の戦争に関する歴史問題絡みかと思いましたが、
後半を読み呆れました。

文化祭の寸劇の出し物の内容は、
日本人留学生三人と日本人教員一人が赤いブラジャーを着用し、
下腹部に紙コップをつけて踊りながらブラジャーの中から紙くずを放り出して
観衆にばら撒いたのです。
度を越した下品さに西安大の教員や学生がその場で踊りをやめさせました。
その後、デモや謝罪要求にエスカレートして、
現地ではものものしい雰囲気に包まれたようです。

日本人留学生たちはウケると思い、赤いブラジャーの寸劇を演じたのでしょうが、
あまりにも下品な出し物を「ウケる」と思う感覚こそが問題です。

これに似た状況がトルコでもありました。
観衆の前で全裸になったお笑いタレントが観衆の怒りを買い、
翌日の新聞に大きく報道されました。
ここでも「全裸」がウケると思ったようです。
つまり、これらは日本の現状ではスタンダード(当たり前)。
中国やトルコでは「そのような下劣な行為を見せるのは我々を侮辱した行為だ」と、
誇りを傷つけられた激怒であり、これが世界のスタンダードのようです。

日本ではテレビを筆頭に、下劣は日常茶飯事に氾濫しています。
マスコミの影響力は洗脳能力さえ持ち合わせています。
最初は不見識と非難された番組が、時を経て当たり前になり、
より刺激を求める映像が制作されます。
そのような番組にも視聴者は「馬鹿にされた」とは思わずに
笑い飛ばし、時には参加さえします。
<マスコミ亡国論><一億総白痴化>と言われる所以です。

局は視聴率を稼ぎ出すためには手段を選ばないようです。
日本では当たり前の下劣が世界に向けて発信されるとき、
周囲と摩擦が生じるのは当然でしょう。
それらは時に国家間の国際問題に発展する危険性も孕んでいます。

マスメディアは猥褻な画像や映像の垂れ流しにも
伝家の宝刀「表現の自由」を振り回しています。
無修正の女性の裸体写真が載っている週刊誌を電車内で広げるサラリーマン。
それを目にした外国人は驚愕して、新聞の投書欄に書いています。(何回もありました)

このような状況が一向に改善されないのはなぜなのでしょう。
マスメディアに自浄能力がなければ一般市民の出番ですが、
子供や青少年に悪影響を与える過激な映像や画像が毎日垂れ流されているというのに、
教育現場や親の立場での抗議やデモ等の危機感には未だに発展していないようです。

欧米では日本人が当たり前に視聴している「ドラエモン」で、
殴るなどのワンシーンでさえ「子どもの教育上よろしくない」と
カットされることもあると聞いています。
アニメの「巨人の星」で、父親がちゃぶ台をひっくり返すシーンがありますが、
インドでは食べ物を粗末にするのは子どもの教育上よろしくないと、
飲み物だけに変更されました。
アニメに限らず日本では、
いたるところにそれらをはるかに上回る暴力的や刺激的なシーンが垂れ流されています。

まっ白な幼児の心は、見たものの全てがそのまま刷り込まれます。
殴り合いはやってはいけないことと、誰かがどこかで「これは違うのだよ」と
教えなければなりません。
それが世界の見識のようですが、
日本ではそんなお固いことをと、揶揄されるのがおちです。

なんでもありの日本の現状とは違う別世界が、世界のスタンダードのようですね。 

自由や人権は欧米からの輸入思想のため、日本ではうまく使いこなせないのでしょうか。
義務が置き去りにされ「野放し状態」と曲解されているような気がしないでもありません。

マスメディアさま、お願いします。
どうぞこれ以上日本を堕落させないでくださいませ。


本年も拙いコラムに最後までお付き合いくださいまして、ありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします。

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