辛口コラム 第234回 健康を喰い物にする黒い霧

消費税が5%から8%になる直前、ドラッグストアーで見た光景が目に焼き付いている。
背が丸くなった80歳は過ぎていると思われる白髪の老女が、
大きなカートを倒れそうな様子で押していたが、溢れるほどの商品が詰め込んであった。

買いだめに狂奔する満杯のカートの光景は、
すでにあちこちでいやになるほど見ていたので驚かなかったが、
問題はカートの中の商品である。
大小の箱の文字を見ると満杯のほとんどが、テレビ等のCMで目にする
「健康に良い」とされている錠剤、或いは飲料であった。

老女の年齢とあまりに多すぎる量を考え、思わずお顔を見てしまった。
様子からはおそらくご自分のものと思われるし、
夫と一緒だとして、一日当たりどれほどのものを服用するかはわからないが、
なんとなく「おそろしい」と感じてしまった。

多くの時間を家で過ごすことができるのなら、
健康食品に頼るより食事の献立に気を遣った方が、
健康にも経済的にも良いのではと、お節介ながら思ってしまった。
それほどぞっとする量だった。

健康に必要な良い成分を、食材から一日分を摂取するのはかなり難しい面がある。
一粒で〇〇個含有などと表示されていると、どうしても手軽に欲しくなる。
しかし、錠剤には結着剤など他の成分も使われている。
ドリンク剤にしても高温で処理をするものは、
有効といわれる成分はかなり減少してしまうようだ。

少し前の読売新聞の「論点」で群馬大教授の高橋久仁子さんが、
昨年の規制改革会議で健康食品に機能性表示を認めることが
日本経済の活性化や健康長寿社会に実現に寄与すると答申されたことに、
疑問を呈していらっしゃる。

規制改革会議の答申とは、今でさえ不明瞭な健康食品の広告等に、
さらなる規制緩和をすることになり、
それは消費者を惑わしかねないと憂慮なさっている。

その根拠として、健康食品の広告にはなんとなく効果があるらしいと、
消費者に思いこませる手法が頻用されている。
「若々しくありたい方に〇〇」とあれば、消費者は「〇〇で若々しくなれる」と思う。
「ダイエットのお供に」なら「それを食べればダイエットできる」と思わせる。

ただし、決定的なことは広告では言わないし、できない。
薬事法などで「効能・効果」をうたう文言を表示できないからだ。
例外として特定保健用食品(トクホ)は一定の機能性を書ける。

健康食品の場合は「暗示」や「ほのめかし」にとどめることで、
法に触れないようにしているとし、
「暗示」や「ほのめかし」の現状を解消するために、
健康食品にズバリと「〇〇で若々しくなれる」と表示できるようにすると
解説していらっしゃる。

わかりやすく言うと、
規制緩和の狙いとはこれまで「暗示」や「ほのめかし」でごまかしてきた健康食品を、
もっともっと消費者が飛びつくように、ズバリと表現できるようにする、
ということになりそうですね。

もっとも気になったのは、規制緩和を答申する際の内容
「日本経済の活性化や健康長寿社会に実現に寄与する」である。
結局は「日本経済の活性化」が主であり、ここでも企業の経済活動が優先され、
日本人の健康は置き去りである。

「健康長寿社会に実現に寄与する」とあるが、
健康食品漬を加速させるような状況のどこが「康長寿社会に実現に寄与する」となるのか。
明らかにまやかし付け足しの感がある。

余談になりますが、
少し前の新聞で製薬会社の大学や研究機関に対する莫大な補助金が問題になったが、
補助金額の1位、2位は外国の製薬会社、3位は日本の製薬会社となっていた。
売上額の金額の順位を見ると、なんと献金額と同じ順位でもちろん会社名も同じであった。
あまりに出来過ぎていたので苦笑してしまった。

健康食品表示の規制緩和を答申した規制改革会議のメンバー構成に大いに興味を持ったが、
日本の食品業界と健康にまつわる業界には、日ごろから非常に疑問を感じています。


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