第233回 あーあ、顔にクリームを塗りたくるやつら

世の中には結婚後に様変わりした夫にがっかりするやら、嘆くやら。
いろいろご不満もおありだと思いますが
他家のダンナさまのグレードを検証すると
「あーあ、これほど酷くなくてよかった」と、胸をなでおろされるかと思います。
辛口コラムではありませんが、お読みいただけたら幸いです。

わたしがその粗忽者のことを知ったのは今から三十年以上も前のことである。

その人の奥さまはとても苦労したらしい。
粗忽者は同じシャツを一週間も着て平気でいるから、
しまいには靴下やシャツはすべて管理して
幼稚園児のように世話をしているとため息をつく。

その粗忽者はさすがにお風呂へは入るようだが、
脱いだ下着やパンツで顔を拭うクセがあり
そのような人物はタオルと間違えて雑巾で顔を拭くなど朝飯前。

「あーあ、なんて汚い、雑巾で顔を拭くなんて」と、奥さまが呆れると
「オトコは野生で勝負だ!」と口答えをするそうな。

「雑巾で顔を拭くのが野生なの?」と突っ込まれると
「オレは顔にクリームを塗りたくるやつらとは違うんだ」とうそぶいて
始末に負えないらしい。

しかし、今どきの男子の顔クリームには
奥さまも胸にクレームを塗りこめているので言葉に詰まるとのこと。

その粗忽者が近ごろ家事手伝いに手を出し始めたらしい。

「こき使いすぎて先に行かれたらマズイと思ったのかしら」と、
奥さまは笑っていらしたが、実は大迷惑だと最後には怒っていた。

奥さまはもともとケチな性分で百円ショップの愛用者だが
毎日の食事に使うものだからと、ご飯茶わんや湯飲み、
よく使うお皿類は一個数千円もするものを使っているという。

粗忽者が洗い物を始めるようになってから、
そのほとんどが割れたりヒビが入ったりしている。
粗忽者は「あっ、手が滑った」「あっ、割れちゃった」と、
そのつどいちいち言い訳をする。

奥さまが「割れたんじゃなくて、割っちゃった、でしょ!」と、怒りまくると、
「くっつけてやるよ」と開き直り、接着剤でヒビ割れを補ったり、
バリンと割ったお皿をくっつけたり。

その奥さまの家の食卓をみると、湯飲み茶わんの縁から下まで
透明な接着剤が斜めに盛り上がって筋になっているそうな。
ほかの犠牲者たちも満身創痍で食卓にいるとか。

「粗忽者と暮らすということは、つまりは自分の美意識を殺がれることなのね」

わたしはしみじみ実感しています。

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