第229回 スーパーの自転車置き場

外国でレンターカーを借りてドライブすることが多い。
運転は癇癪持ちの夫、方向音痴の妻は「標識も読めないのか」と怒鳴られながら
なんとかクチナビの役割を果たしている。

ドライブ中は車の中に一切の荷物を置かないように気を使う。
荷物を狙って車を壊される危険が伴うからだ。
おやつ等の食べ残しや紙くずなどをごみ袋に入れてうっかり座席へ置き忘れたら、
ごみ袋をトランクに入れるためにわざわざ慌てて戻ることがある。
たとえ中身がごみくずでも、獲物を狙っている悪党にお宝と誤解され
車の窓を壊されるかもしれない。
ごみくずのために車を弁償させられるなんて真っ平。

いつも借りている最も経済的な車種にはカーステレオなどの余分な装備は一切ない。
カーステレオ欲しさに車を壊されることもあるからだ。
国によってはタイヤやミラーなどの部品も被害に遭うと聞き及んでいるから、
宿に駐車場の備えがなくて夜間に路上駐車を余儀なくされるときは、
翌朝は洗顔より先に車の様子をチエックするために宿を飛び出すことがある。

ヨーロッパを旅行すると、バイク等のキーロックはもちろんのこと、
タイヤに呆れるほど極太のチエーンが巻きつけてあるのを見かけるが、
盗難防止のためにはそれが常識となっているようだ。

そのような環境の国の人が日本に来てスーパーの自転車置場の様子をみかけたら
信じられないと目を瞠るにちがいない。
スーパーの自転車置場の買い物籠の中には、
他店で買った品物や荷物を放置したままにしている光景を見かける。

「世界中で最も危険で安全な国」というタイトルで
まだまだ日本は安全な国という趣旨のコラムを書いたことがあるが、
スーパーの自転車置き場の状況を見るとその安全性が理解できると思う。

実はわたしもしょっちゅう荷物放置族である。
自転車に鍵をかけてさて荷物をとなると、とたんに面倒になる。
買い物の間ずっと持ち歩くのは重いし厄介でもある。
このまま放置しても大丈夫かな? と一瞬だけ不安が頭によぎるが、
これまで盗られたことがないから今日も大丈夫と自分を納得させる。
周囲を見回すと同じような放置族があちこちにいるから、なぜか安心してしまう。

きっと一度でも盗難の被害に遭えば、二度と放置しなくなると思う。
いつかはその日が訪れることになるだろう。
その日が来るまでは荷物放置はやめられそうにもないが、
とりあえず日本の安全神話は、スーパーの自転車置き場を見る限りはまだ健在のようです。


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