第221回 スーパー・マン

数人の中年女性が目の色を変え、髪をザンバラと振り乱して
ビニール袋へミカンを詰め込んでいる。

(早つかみ競争でもあるまいし・・・)

彼女たちは富士山みたいに積まれたミカンの山を
マージャンのパイみたいに思いっきりかき混ぜて
血走った目でより大きいのをつかみ取ろうと必死の形相!

10個で198円、たしかにお安いです!

彼女たちの迫力に圧倒されて、袋詰め半ばでわたしは弾き飛ばされた。

(大きさなんてどれも・・・うっそぉ、こりゃエライ違いだワ)

たちまち目の色変え、心を入れ替え、腕をまくりあげ、気合を入れて・・・
おっと・・・

(こんな姿を男の人が見たらどう思うかしらん)と、気がひるんだそのとき

・・・アレ、おじさんも?

同じミカンを引っつかんだ手で面を突き合わせたお相手は、初老の男性でした。
彼も負けちゃいませんでしたよ、ええ。

ヤング男子はコンビニ、中高年男子はスーパー。
今やスーパー・マン氏はまったくめずらしくなくなりました。

わたしは料理に凝っていて作るのはすごく好きだけれど、買い物が大の苦手。
その苦手のスーパーで唯一の気晴らしと楽しみは
レジ列で他人のかごの中身を観察することでしょうか。

(高いものばっかり買って・・・わぁ、お財布はくたびれてるぅ)
(ラーメンばっかし食べさせてると、キレやすい子供になっちゃうよ)
(ビール3缶? 1パック買った方がオトクだってば)
(今夜はスキヤキ? しらたき使わないの? おいしいのに)

「ちょっとお客さん! お会計をお願いできますか!」

だからスーパーのお買い物はイヤだっていうの、不粋なんだから。

わたしはO型の大ざっぱ。
スーパーのチラシを見るのは面倒、家計簿も辛抱不足でつけられない。
そして今籠に入れたばかりのおサシミのパックの横で、
店員さんがマジックで1000円を850円に書き変えても
(ちょっとぉ、ズルいんじゃない?)と心の内で叫びつつ
(まっ、いいか)、と自分をなだめて納得させるタイプ。

「オイ、ちょっと、コレ納得がいかんよ。いま買ったばかりなのに納得できんよ。
 このスーパーはいったい・・・」

声を荒げるのはこのごろのスーパー・マン氏です。

「あっ、お客様どうぞこちらのものをお持ちになってください」
「いや、ワシはこのパックが気に入っている、こっちの値段を書き変えてくれ」

スーパー・マンさん、うらやましいです。
わたしもあなたの心臓を見習いたいです。

わたしは大ざっぱのくせに気が小さいという、大小を合わせ持つ性格ゆえに
コラムなどで自分の意見を表現するのはしょせん無理があるんでしょうか?


HOME  TOP  NEXT