第211回 イケメンさんにかしずかれても・・・

美容院にパーマをかけに行くのは年に二回ほどであるから上客とは言えないけれど、
髪がまとまりにくくなったら行くものと心得ている。
髪にウエーブさえつけてくれたら、髪形はそれだけでOKであるから、
美容師さんにとっては気楽な客であると思っている。

以前、その美容室で化学薬品を使ったシャンプー剤で、
体育会系の男性美容師さんから大切な頭皮を
新じゃがの皮をタワシでゴシゴシこするようにしごかれ、
パーマをかけた後でヒリヒリ痛んだ。
それ以後は、家を出がけに天然ハーブの粉末を使い、
生卵を扱うように大切に洗髪してから美容院を目指す。

当然、美容院でのシャンプーはお断りする。

自分がイメージする長さより髪を短く切りそろえられてはたまらないから、
カットもあらかじめ家で長さを整えて調髪して行くので、
美容師さんは真似ごとでスソにチョンチョンとハサミを入れるだけ。

シャンプーやカットの、個別メニューの金額はかなり高い。
パーマ代金にはシャンプーやカット分がセットになっている。
わたしの場合は、洗髪とカットの手間が省けることになるから、
あわよくばすこし安くしてくださるのかなと期待していたけれど・・・

モチロン、洗髪やカットを自分の手ですませておいても
シャンプー&カットが込みの代金を要求される。
世の中が自分で思うほど甘くないのは、
わかりすぎるほどわかっていたはずなのに、
ちっともわかっていなかったのね。

自宅で済ませたシャンプーもカットも、
わたしが勝手にセットのパーマ代の内容を無視したものなので、
我儘代として仕方がないと諦めているけれど、
仕方がないと思えないものもある。

イケメン美容師さんがひざまずいて
雑誌の類などを手渡してくださる儀式に閉口している。

イケメンさんが女性にひざまずく儀式は、
テレビで見たホストクラブを思い出させるものである。
ホストさんは、そうして女性の心をくすぐるのが営業として納得できるけれど、
技術を売りにする美容師さんがひざまずく意味が理解できない。
美容院の客(わたし)が美容師さんに求めるものは技術の腕前ですが、
お客の中にはこのようなサービスに気を良くする女性もいて、
人気があるのでしょうか。

そもそもわたしがこの美容院に通うのは、
責任者の女性美容師さんの腕前と人柄に引き寄せられて通っているもの。
彼女は二児のママさん美容師さんですが、
堅実で確かな腕前と飾らない人柄に魅せられて
もう20年以上ものお付き合いです。

以前は女性美容師さんが多くいたその店も、
いつしか今風のイケメン美容師さんがほとんどを占めるようになり、
男性に髪をいじられるのが苦手なわたしは、
いつもママさん美容師さんを指名してお願いしている。

先日、久しぶりにパーマをかけに行った。

この美容室はパーマの間に飲み物のサービスをしてくださる。
当初はコーヒーメーカーを使ったコーヒーに、
クッキーか粒チョコが二、三個添えてあり、それが楽しみだった。

今回は、自動販売機で見かけるボトル缶入りのカフェラテ、
ウーロン茶、紅茶の缶入りに変わっていた。(手抜き?)
(コーヒーメーカーのコーヒーはおいしかった・・・)

しかし、客は無料で提供されるサービスをありがたく受け入れるべきであり、
営業姿勢にケチをつけるなどはもってのほか・・・でしょ?

その日、ボリュームが一番ありそうなボトルのカフェラテをお願いすると、
さっそくイケメン美容師さんがやってきた。
彼はわたしの前にやおらひざまずくと、
ボトルの栓を「パチン」と回して封を切った。

そこまではまあまあと思ったけれど、
なんと、ストローの封まで切って
開けたばかりのボトルに差しこんでくださった。

うーむ・・・

イケメンさんがストローを差し込むために掴んだ部分は、
わたしの唇がカフェラテを吸い込む部分でもある。
つまり、わたしの唇より先に、イケメンさんの指が
ストローの吸い口の部分に触れてしまっている。

細かいことは言いたくないけれど、
これって衛生上はどうなのよ。

かゆいところに手が届くようなせっかくのご親切も、
「なんだかねえ・・・」と思いつつ、
そこは年の功と方弁で「アリガトウゴザイマス」と、きちんと礼が言えた。
(エライ!)

わたしはヘソ曲がりかもしれないけれど、
「なんだかねえ・・・」と思ったのは
予期しなかった彼の儀式の様式に限ってであり、
イケメンさんその人を責めるものではないはず。
彼はお店の営業方針に従っているだけなのだから。

イケメン美容師さんはセンスが抜群である。
きっと、美容技術の腕前も確かではないかと思っています。
そんな彼にしてみれば、心の中では
「なんで美容師のオレがこんなことをしなくちゃならないんだ・・・」と、
大いに腐っていらっしゃるのかもしれない。

イケメンさんの心情に思いを巡らし、
お節介なわたしは勝手に切なくなりました。

女心を掴もうとする営業方針は理解できなくもないけれど、
美容師さんが心から誇りを持って働いている姿に、
わたしの女心は感動するけれど、それじゃあだめ?

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