第210回 情熱は欲望?

最近の新聞の読者投稿欄の内容に驚いたけれど、
これは投書の主に失礼にあたるかもしれない。

その内容をご紹介。
「独り暮らしの90代の女性です。3年ほど前に20歳近く年下の70代の男性と知り合いました。
彼は<年の差なんて、関係ないよ>と言ってくれ、私もほっとしてお付き合いをするようになりました。互いの家も近く、1日に2度来てくれるなど、楽しい日を過ごしていました」

ところが今年、男性が3か月ほど入院した。
年金生活者なので入院費が足りなくなり、お金を貸してと言われて10万円ほど貸した。
1か月ほどして、生活費がないのでまた貸してくれと頼まれ
「前のお金も返してもらってないので、一筆書いて欲しい、その書類を息子に渡す」と言ったところ、
その後、彼は一度も来なくなり、電話もかかって来なくなった。
女性は彼を好きなので、寂しくて悲しい。
どうしたらよいか教えてくださいと願っている。

これを読み、考えさせられました。

年齢に大差のある年上の女性に近付く男性との恋愛については、
世間では金銭に関する話題が多くみられます。
この件の場合、当初は普通の付き合いだったけれど、
突発的な男性の入院で彼の経済事情から借金の申し込みをしたと思われ、
この状況だけに限って言えば、当初は金銭目的ではなかったと読み取れます。

その後、1か月して生活費の工面をお願いする借金の申し込みは、
実際に生活が困難なのか、ひょっとしたら最初の借金に味をしめてしまったものなのか、
いずれにしても90歳を過ぎた高齢の女性の態度は毅然としていて立派でした。
高齢女性の同様な事例では、男性を引きとめたいばかりに
ズルズルと男性の意のままに従ってしまう多くの例があります。

仮にその男性の立場であったなら、「あんなに気持ちが通じ合っていたと思ったのに、
借用書を書くのはともかく、それを息子に渡そうなんて考えるのはひどく情のない人だ」と
思うかもしれません。
しかし、前の借金をそのままで、1か月後に再度の借金を申し込むのは、
虫がよすぎるか甘えていると思われても仕方がない。

ともかく、高齢女性の情熱を羨ましいと思ったのは事実です。
その年齢で異性への感情を保ち続けていらっしゃるという意味ではありません。
彼女から比べるとわたしはひよっ子同然ですが、男女間の感情はすでに消失模様。
まあ、今は今は手一杯ですから。
たとえいつか独身になったとしても、若いころからの男性に対する淡白な感情を思い起こすと、
投書の主のような男女間の情熱は間違っても持ち得ないのではと、
容易に想像がつきます。

そればかりではありません。
おいしいものを食べたいグルメ願望、ブランド製品や宝石類が欲しい、
お金持ちになりたい、美人になりたい、素敵な家に住みたい等の欲望の数々には
ほとんど執着を感じません。

これらを客観的に検証して「自分の人生はどこかおかしい」と思ったりするけれど、
気短な同居人はいつものようにひとことでケリをつけてくれます。

「醒めている」

醒めている人が感情を剥き出したコラムなど書くものですか!
と思っているわたしにしてみれば、
普通の人間が普通に持っている欲望からすでに解き放たれ、
あたかも修行僧であるかのような心境なのですが、
最もな俗人から見ると、修行僧は「醒めている(?)」

投書の主を羨ましいと思ったのは恋愛関係ではなく、
いくつになっても「人生に情熱を失わない姿」に感動したからです。
なにごとにも淡白なわたしが最も手に入れたいものです。

手に入れたい・・・これ、欲望なの?

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