第200回 薄気味悪いテレビ番組

新聞記事のタイトル「輝く女性」でフリーアナウンサーの須磨佳津江さんの記事を読んだ。
この名前に覚えのある読者もいらっしゃると思うが、
かつてはNHKのアナウンサーだった人である。
結婚退職を機に、当時はまだめずらしかったフリーアナウンサーになった。
須磨さんが退職したのは夫の住む地方に女子アナの転勤枠がなかったため。

フリーになってから月に1、2回のペースでNHKの番組を担当したが、
東京に戻ってから第二子を出産し一時仕事が途切れて
「もう、仕事への復帰は無理か」と諦めかけたころ、
三つの番組からオファーが来た。

その中には当時話題となったヒット番組があり、
彼女は「人生には良い時と悪い時のバイオリズムの波があることを学んだ」と述べている。

蛇足ながら、結婚して子どもを育てながら働く女性は、
「なぜ私ばかり苦労するの」と思い悩む人が多いようですが、
子育てを悲観的なマイナス思考でとらえないように須磨さんの言葉から学んでみてはいかがでしょう。
焦らずに一時期しか楽しめない子育てを貴重な時間と捉えて欲しいと願っています。

須磨さんは民放の番組も経験したが、そこは弱肉強食の世界。
「番組のコンセプトは何か」「視聴者に何を伝え、相手に何を聞けば魅力を引き出せるのか」
という当たり前のやり方が通用しないことにカルチャーショックを受けた。
須磨さんが「自分を無理に出し尽くして心が空っぽになり、ここは自分には向かない」と、
知識を吸収できる番組に就きたくなったころ、放送大学の仕事が舞い込んだと言う。

これを読んで「やはり」と思ったのは、民放の番組作りの姿勢である。

最近のNHKの番組作りも若者受けを狙うあまりか、
民放と大差のない番組が増えてきたが、
総体的にはまだ公共性を意識している部分は見られるように思う。

しかし、最近のニュースウオッチ9は例外。

民放の報道番組より質が低下して、
いまやトップニュースに芸能関連やスポーツ関連が多く登場する。
その印象は、あたかもスポーツ紙か週刊誌的。
取材の姿勢や視点も以前よりかなり軽く薄くなり、
内容的には受け狙いを相当意識しているように感じるが
キャスターの好みなのか、サイトでは自画自賛しているけれど、
ニュース報道の根本を履き違えているように感じている。

テレビをあまり見ない我が家でニュースウオッチ9はメインであり
欠かさず見ていたが、最近はほとんど見なくなり、
以前はお呼びでなかった報道ステーションが、今はその役割を果たすようになった。

須磨さんが民放で経験した思いは、民放の番組作りを見ればその程度がわかる。

芸能人や有名人の多くが各局をたらい回されているような状況であり、
お笑い芸人やアイドルタレントの顔ぶれをひな壇にズラリと並べる方式は、
薄気味が悪いテレビ番組として映る。

テレビのひな壇のあのスタイルはどうして多用されるのであろうか?

三人寄れば文殊の知恵と言うが、お笑い芸人や舌足らずのアイドルをこれでもかと並べて、
視聴者に彼らの意見を聞かせようとするそのコンセプトは?

出演料をもらっている出演者たちが、勝手に盛り上がって自分たちが楽しんでいる様子を
視聴者に見せつけるそのコンセプトは?

どうして何もかも「クイズ形式」にしなければ気がすまないの?

ひとりくらいは、その局ならではの個性のある番組作りをしようと試みる、
骨ありディレクターは存在しないの?

ひな壇形式だけではない。
バラエティ的な教養番組がヒットするとすぐさま他局が真似をする。
健康番組やら政治関連番組でもしかり。
局名は違っても内容は似ているものが多い。

これでは無意識のうちに視聴者、つまり国民の意識はいやでも統一性に向かってしまう。
考える教育を受けない身に、さらにメディアが統一性を押し付けるなら、
かつて評論家の大宅氏が予言した「国民総白痴」は当たり前。

メディアは独自性、多様性があってこそ存在意義があるのではないの。

新聞記事「世界から姿を消す日本人」の中に、
W杯の元日本代表監督のオビチャ・オシム氏が
「なぜ日本人指揮官は勝てないのか(文芸春秋社)」で日本人論を紹介している。

オシム氏曰く。
「日本選手はチャンスの時でも、選手の多くが前線に走りこんで数的優位を作る戦術的な意識に欠けている。言葉を変えれば、自ら判断することの回避であり、リスクを犯すことの回避であり、責任を取ることの回避でもあった」

この言葉はサッカー選手に限らずテレビ局の番組作りの面々にも言えることであり、
政治家や会社の責任者等、さまざまな場面に当てはまるものでもあるが、
自ら考え判断し実行することがいかに重要であるかを物語っている。

その後、サッカー選手たちは努力によって
自ら判断し実行するメンタルと技術を身につけ、
以前とは違った試合運びで世界的な活躍に結び付ける結果となったけれど、
テレビ関係者にそれを期待しても無理かも・・・。

堕落の度が過ぎて、努力の施しようがないから?


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