ネット姫のつぶやき爆弾 辛口コラム


第194回 猛女と優男(やさおとこ)

テレビ画面をみながら、傍らにいた夫が「喰らいつきそうな顔をしているな」と、
つぶやいたのをよく覚えている。

夫は一呼吸置いてから、また言った。

「女も、あのくらいの顔つきにならなくちゃ、出世できないな」

そのとき、なぜかわたしの顔にチラリと視線を投げてから、

「女もああいう顔つきにならなくちゃ、だめだな」

と、聞えよがしに言った。

「ああいう顔つきになって、誰に喰らいついたらいいの?」

と、わたしも夫を見返したけれど、夫は聞こえないふりをした。(いつも、そう)

わたしが初めて彼女に出会ったのは、かれこれ20年ほど前のこと。
夫が感心した、要するに気合の入った顔つきのクリスチャン・アマポールさんは、
当時、アメリカのCNN放送の花形女性記者であり、
そのころは、中東のテロ、暗殺、紛争現場を飛び回り、
銃声の音と共に数々の危機レポートを送ってきた。

CNNのコンセプトは、世界で大事件が起きた際は
いついかなる時間でも、検閲なしにそのまま生放送に切り替えるとか。

あまりに緊急で、映像が間に合わなかったのか、
画面は、事件エリアの地図と彼女の小さな顔写真のみで
声だけが緊迫の様子を伝えていることもあった。
彼女の声に重ねて、叫び声や銃声が絶え間なく流れてくる。
男性を出し抜いて、最も危険な地区を担当しているのだから
彼女はよほど優秀に違いないと感心した。

彼女はイランの出身で、ときおり画面に現れる際の彼女は
鉤鼻、無造作に垂らしたボサボサの黒髪、真っ直に見据える黒い大きな瞳が、
彼女の意志の強さを体現しているように感じたが、
夫の言葉を借りると「気合の入っている顔」であり、「喰いつきそうな顔」となるようだ。

ある日、彼女の結婚を伝えるトピックス記事を読んで驚いた。
彼女のハードな仕事ぶりからして「結婚」の二文字は
彼女から最も遠い位置にあると思っていたが、
そのお相手が、当時クリントン政権の国防総省の要職にあった
ルービン報道官と聞いて、なおさら驚いた。

ルービン氏はユーゴスラビア空爆の際に米国の立場を主張するスポークスマンとして
連日テレビニュースに登場、世界的に有名になった。
弱冠39歳で報道官に抜擢された逸材で、容姿はケネディ・ジュニア似のハンサムさん。
報道陣を前にコメントを述べる彼は、映画俳優のようにカッコ良かった。

そのカップルの印象を、失礼を承知で言わせて頂くと、
「猛女と優男(やさおとこ)」

それから2年後の春先、ルービン報道官の退官が伝えられた。

理由は「専業主夫?」

「妻の赴任先のイギリスで妻と同居し、当分はゆっくり子育てに専念したい」とのこと。

アマンポールさんはCNNテレビの特派員として
「世界で最も高給取りの記者」として知られているから、
下世話なわたしは「アマポール女史に食べさせてもらうのかしらん?」と
その先が気になった。

日本の子育て専業主夫の現状は、定職のない夫か、
妻より収入の低い夫と相場が決まっているようですが、
まだ41歳の現役バリバリの政府高官が、その職を投げ打つなんて・・・

うーん、やっぱりアメリカだ!

アマポールさん、あなたは女性としてもすごく素敵な方なのね。

その後、彼女がABCへ移籍するニュースが突然流れ、またしても驚いた。

CNNは<Larry King Live>のラリー・キングさん。
<AC360>のアンダーソン・クーパーさん。
そしてアマンポールさんが看板スターであった。

大看板のラリー・キングさんは、70歳を過ぎてから
「今後は家族との時間を大切にしたい」と、引退を表明したので、
アマポールさんまでいなくなるとは思ってもいなかった。

東日本大震災の際には、アマポールさんはABCのアンカーとして日本入りしているが、
残念ながらABCは視聴していないので、取材の様子は視聴出来なかった。

ABCに移籍してから、彼女を画面で見ることはなくなったが、
少し前から、CNNに彼女が再び登場するようになった。
ABCのニュースアンカーを担当しながら、現在はCNN上級国際特派員と、
ABCの国際紛争担当アンカーという2つの肩書きを持っているらしい。

ウイキペディアによると、
1990年CNNの国際特派員となったアマポールさんは、
最初に手がけた大きな仕事である湾岸戦争の交戦地帯の最前線からのリポートで
世界にその名が知られるようになり、
以後、アフガニスタン、イラン、イラク、パキスタン、ソマリア、
イスラエル、パレスチナ、パレスチナ自治区、アジア各国、
ルワンダ、バルカン諸国、リビア、ヨーロッパ諸国やアメリカなど、
世界各地から主要ニュースや現地の危機的状況を伝えてきた。

世界の数多くの元首との、単独インタビューを成功させ、
それらの功績に対して与えられた賞は数えきれない。
CNNでは、自分の名前を冠した看板番組までありながら、
最近、ライバルのABC社へ移籍したアマポールさんであるが、
CNNはそれでも彼女を必要としたのだろうか。

なにより驚いたのは、最近のCNNで再会した彼女の変貌ぶりである。
全体から受ける印象がガラリと変わっていた。

湾岸当時に逆立っていたボサボサの黒髪はきちんと手入れが行き届き、
本来のつややかさを取り戻し、お化粧方法も鮮やかな口紅を使い、
別人のように見えた。

もともと、目鼻立ちが整っている西洋人なのだから、
お化粧方法で、モデルのごとく映えるようだけれど、
取材対象に吠えるような口調で鋭く迫る彼女は健在だった。

ルービンさんは子育てに専念すると宣言していたけれど、
2000年3月の共同通信の記事に、米国務省のルービン報道官(40)と
妻でCNNテレビの看板記者クリスチャン・アマポールさん(42)の間に
長男が生まれたとあるから、現在は13歳?

ルービンさんは、まだ子育て中なのかしら?


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