ネット姫のつぶやき爆弾 辛口コラム


第193回  報道界の良識の行方(良識があったの?)

最近、斉藤投手の二軍入りのスポーツニュースを見ながら夫が言った。
「斉藤投手はもう二軍から戻れないんじゃないか」

斉藤投手があの「ハンカチ王子」であることを、
記憶力の乏しいわたしはすでに忘れていたが、
夫との会話で斉藤選手にまつわる過去の記憶がよみがえり、
当時書いたコラムを思い出した。
(以下はその当時のものから)

プロ野球ドラフト抽選ニュースでひさしぶりにハンカチ王子という名前を聞いた。
野球にあまり興味がない身だからルールもよくわからない音痴だが、
その名前だけは覚えている。

2006年、早稲田実業学校高等部3年生の斎藤祐樹選手が
第88回夏の高校野球甲子園大会で優勝投手となったが、
試合中にマウンド上で折り畳んだハンカチで汗を拭う仕草が話題になり、
マスコミ各社が「ハンカチ王子」と呼ぶようになったようだ。

当時の彼を取材する報道姿勢に疑問を感じてコラムを書いた覚えがある。

日米高校生の親善試合の同行取材は、
斉藤選手の出番がない試合で、他の選手の活躍により大差で勝った試合の中継だというのに、
ベンチで応援する斉藤選手の映像ばかりとの印象があった。
あまりにも恥ずかしい取材内容で一言書かないではいられなかった。

これはかつての巨人の野球報道にも共通する。
今は巨人の人気が凋落したためかその傾向はなくなっているようだが、
以前の報道は巨人が勝って報道するのは当たり前。
負けると「巨人が負けた」と大きく報じられ、
勝った相手のチームの報道は後からつけたしの感があった。
国民のすべてが巨人フアンというわけではないから、バランス感覚に欠ける報道姿勢だ。
勝ったチームに対しても甚だしく礼を欠くものだった。

さて今回、野球音痴のわたしに久しぶりに届けられたハンカチ王子のニュース。
その過程でヨン様フィーバーと同様、
王子さま誕生当時の中年女性の恥ずかしい嬌声映像が繰り返された。
ハンカチを取り出して汗をそっとぬぐう様子が「たまらなく上品だわ。キャー」。
それを見てわたしのウンザリも繰り返されることになった。

ハンカチで汗を拭う行動そのものは確かに品がよろしいが、
場面によりけりというところか。
わたしの個人的感想は、勝つか負けるかの試合中はお品よりも
ユニフォームの腕で拭う姿が高校生らしくスポーツ選手としても好ましく映るが、
他人の目の捉え方は千差万別。
だから世の中はおもしろいのかもしれない。

それにしてもいずれの局やスポーツ紙も斎藤ハンカチ王子の記事の仰々しさ。
野球事情に詳しくないわたしは
斎藤選手の「四球団が一位指名」に大きなニュースバリューがあり、
それによる集中報道だと思い込んでいたので、
繰り返されるニュース画面を見ながら感想を述べた。

「さすがに人気者は違うわね。四球団から一位で指名されるなんてすごい」

とたんに夫が不機嫌になった。

「六球団から一位で指名されたヤツもいる!」

「えっ、そんな人がいたの?」
「同じ早稲田の大石選手だ」

「あら、この報道はおかしい。そんなことちっとも言っていない」
「アッタリ前! やつらは人気者がすべてだ」

「四球団よりも六球団から一位指名された方が普通はニュースバリューがあるはずよ」
「日本の報道界は普通ではない」

「ハンカチ王子ばかりで、六球団一位指名はつけたしで気がつかなかったのかしら」
「日本では一度人気者になればしめたものだ」

「それは知っているけれど、ニュースがこんなに偏重なのは困るわ」
「ニュースが偏重じゃない! 偏重をニュースにしているだけだ」

「スポーツニュースだから害はないけれど、この報道姿勢が他の分野を害しない保証は
 どこにもないわね」
「ない!」

その後は、夫婦で恒例のオフレコ言いたい放題。

人気者を中心に取材合戦を繰り広げるのはわかるが、
日本の報道の偏重は度が過ぎてかつ横並びだから始末に悪い。
報道の魂をどこへ置き忘れたかは知らないが(魂あったの?)
取材側の能力を総動員して視聴者に筋の通ったニュースを伝えて欲しい。
最も、視聴者も作られた人気に煽られないだけの冷静な目も必要とされるが。

誰かが新しいニュースネタを掘り起こすと、わっと一斉に飛びつき、
煽るだけ煽り人気者や流行を世の中に垂れ流す。
それに見事に反応して狂喜する人びと。
その様子をさらなる報道のタネにして、
実態の乏しい人気者や流行をこれでもかと世の中に拡大させる。

これらの報道関連の末期的症状はずっと見てきたが、
何年経っても変わらぬ様子を見せつけられると空しくなる。
報道界はこのままどこまで堕落を続けるのだろう? 
それをよしとする受ける側の姿勢もさらなる問題ではあるけれど・・・


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