第189回  ストロベリーパフェは誰のもの

外食はあまり好きではないけれど、
健康診断の帰りに途中のファミレスへ寄った。
朝食を抜いているので行き倒れになるような気がしたから。

壁側の三席の真ん中が空いていたので座った。

左は背広を着た中年男性がランチメニューを食べていた。

右は大学生らしい年ごろの若い男性と、すこし疲れた感じの中年女性。
明らかに親子とわかるカップルで、親子のメニューもランチメニューである。

中年男性は、わたしがメニュー選びをしている間に
早食いコンテストの様相でランチを平らげ、
あわただしく上着をひっかけて席を離れた。

入れ替わりに右の席の息子さんと同じ年ごろの若い男性が座った。

その間に親子連れはランチを食べ終えて
母親が3回目のドリンクバーに向かったけれど
なぜか息子が立ち上がり、テーブル越しに千円札を一枚母親に渡した。

あら、親子でワリカン?

それにしても、なぜこのタイミングで渡すのか?

母親がいない間に、息子は卓上のベルを手のひらでバシッとたたき、
ウエイトレスがやってくるとメニューを指した。

母親がオレンジジュースのグラスを持って戻って来ると
息子は机の上に500円玉をひとつ出して、母親の前にずずーっと滑らせた。

まあ、追加のワリカン代?

やがてウエイトレスが細長いグラスに茶色と白のとぐろを巻いた
山盛りのチョコレートパフェを持ってきた。

彼女は一瞬、母親と息子の顔にあわただしく視線を走らせ、
どちらに置こうかと迷っているようだった。
息子がちょっと手を上げて合図したので、
パフェのグラスは無事に注文主の前に収まった。

親子が席を立つと初老の女性がふたり、間髪をおかずに滑り込んできて、
さっそく機関銃のおしゃべりを打ちまくった。

「コラーゲンが肌にイイって言うから飲んでるの。どうかしら?」
「少しツヤがよくなったんじゃない?」
「あら、そう? 高いんだもの、当り前よね」
「そんなに高いの、いくらだった?」

息子ではなく孫が大学生くらいの年齢の女性たちだったが、
念入りにお化粧をしてとても女らしくて、ノーメイクのわたしはうつむいた。

しばらくすると、4人連れの中年女性たちがにぎやかにやってきた。
何かの集まりのグループのように見えたが、初老の女性たちに声をかけた。

4人の団体席の隣に座っていた若い2人の女性が気を利かせて
グループが一緒に座れるように席を代わってあげた(エライ!)

つまり、若い彼女たちはわたしの右隣にやってきた。

20歳半ばくらいの沖縄美人のような情熱的な瞳の女性と
もう一人は少し年下の感じで、ハンチングに細身のジーンズ、膝丈のブーツ。
なかなかおしゃれな感じだけれど、ふたりとも髪を染めていなくて
テレビで見るタレントのようなイヤらしさがないので好感が持てた。

情熱的な瞳の方が言った。

「あーあ、恋がしたいなぁ」
「すればいいじゃん」と、ファッション娘。

(恋じゃなくて恋愛じゃないの?)と、わたし。

だってさ、恋は自分中心だから自分の中だけでもできるから
いつだってどこだってできるでしょ?
愛は自分のことより相手のことを思う気持ちだって、
どこかに書いてあったわよ。

わたしは、左隣の青年とくっつけたらどうかしら? と想像してみたが
青年は線が細くてちょっと荷が重い感じ・・・
と思っていたら、食事を終えた彼が卓上のベルを丁寧に押した。

やがて彼の前に運ばれてきたのは
赤と白のとぐろが山盛りのストロベリーパフェ!
彼はひとさじ掬ってはスプーンを口に入れ、
愛おしそうにその動作を繰り返していた。

それにしてもイマドキの若い男性は
チョコパフェやストロベリーパフェがお好きなの?

パフェが大好きなわたしは女性専用のメニューのように思いこんでいたから、
両隣の若い男性のパフェにすこし戸惑った(時代遅れ!)

しかし、若いウエイトレスさんの頭の中もわたしと同じ思いだったようだ。
オーダーしたのは息子なのに、チョコパフェをどちらに置くか一瞬迷っていたから。

もっとも、お酒は男性の飲み物のように思っていたけれど
もうかなり前から若い女性が浴びるほど飲んでは「オイ、オマエ」の時代だから、
男性のチョコパフェに違和感を覚えては失礼に当たるかもしれないわね。

当然のことながら食べ物のメニューも男女同権時代である。

それより、両隣の席が入れ替わるのにそんなに頑張っていたの、と言いたいのね?

わたしは食べるのがとても遅いのです。
家でも、大きなお茶碗に山盛りのごはんのだんなさまと
小さなお茶碗に7分目くらいのわたしが同時にスタートして
だんなさまが二杯目のお代わりをして食べ終わり、新聞も読み終え、
二階に引き上げるころでも、わたしはまだ口をモグモグさせている。

だんなさまが異常に早食いのせいもあるけれど
わたしが異常に遅いせいでもあるのです。

やむなくひとりで外食するときは、マイペースで食べることができるので、
とても良い社会勉強をさせていただくことが多いようです。

ところで、あなたはストロベリーパフェはお好き?


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