第186回  盛りのついたメス猫

女盛り、男盛りという表現は、褒め言葉だと思っていますが、
わかっているつもりでもなんとなくスッキリしないので
コトババンクで調べてみた。

おんな‐ざかり 〔をんな‐〕 【女盛り】
女性の、心身ともに成熟して最も美しい年ごろ。

思っていた通り、褒め言葉であったが、
わたしはこの「盛り」という褒め言葉にあまりよい印象が持てない。
たぶん、子どものころの記憶が強力に脳にインプットされているせいである。

口だけは妙に達者ながら、もう野良仕事にも出られなくなった高齢の、
暇を持て余したオバアチャンたちが、縁側でお茶をすすりながら、
唯一の気晴らしと楽しみにしていた噂話の中で、
この「盛り」という言葉をときどき登場させていたからである。

オバアチャンたちの標的は、派手な化粧や衣装の村の娘であったり、
土地の金持ちに都会から嫁いできた美人のお嫁さんであったり、
後家さんやワケありの出戻り娘だったが、
実際、噂話に男性はほとんど登場しなかったように記憶している。

「〇○さんちのむすめっ子は、盛りのついたメス猫みたいじゃんけ。
 夜になると男に会いに出かけて行くずらに」

オバアチャンたちは過去に標的にされた恨みを、
今度は自分たちが晴らす番とばかりに、
若い娘や嫁さん、後家と、手当たり次第にコキ下ろし、
それを生活のハリにしていたようでもある。

就学前の、まだ世の中をよくわかっていない子どもの耳にも、
<盛りのついたメス猫>はいかがわしいものの響きを持って、
強烈なインパクトを与えたようだ。
わたしが未だにその影響を受けているのが何よりの証拠である。

実際に<盛りのついたメス猫>には、かなり悩まされた。
というより、今も悩まされている。

すぐ忘れる人なので記憶は定かではないが
寒い時期になると、それは2月ころであると思うけれど
決まって夜中に猫のすさまじい鳴き声で叩き起こされる。
普段は聞きなれないフー、ファー、ギャオーなど、
けたたましい耳をつんざく猫の唸り合いが、
夜のしじまを突き破って寝室を襲う。

すこし我慢をすればと思い、やり過ごそうとするが、
一向にやむ気配はなく、ますます雄叫びはひどくなるばかり。

とうとう我慢できなくなり、凍てつく寒さの中、
ベッドから抜け出したままの薄着で寒さに震えながら階下まで降りて行き、
庭に面した窓を開けて「シッー」と、こちらもすごい形相で唸り、
しばらくは様子を見る。

虚をつかれた猫たちは、早々に退散したのか
周囲はすぐに元の静寂を取り戻すが、
それでも時期になると同じことが幾度となく繰り返される。
すっかり冷え切ってしまった身体をまたベッドで温め直すまでは
なかなか眠りにつけないから厄介である。

<盛り>のついたメス猫は、どちらにしても印象が悪い。

ところで、女盛りとは具体的には何歳ころを指すのか。
日本では昔から30代と言われているそうですが
英国の男女2000名を対象に行われた最近の調査で、
女性が一生で一番美しいとされる黄金年齢は31歳であることが判明したとか。

日本のマスメディアがこぞって蔓延させた新造語の<アラ、サー>が、
つまりは女盛りとなるようです。

アラ、ソー?


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