第184回  勝手にキャンパス・ツアーガイド

知り合いのお茶会に招かれて、目白庭園までノコノコ出かけた。
その帰途、目白駅のすぐ向こうに木立が見えたので電車に乗るのを止めて、
またノコノコとそちらへ足を運んだ。

高い塀に囲まれた敷地の古びた門に「学習院大学」とある。
門の傍らに立派な守衛室もある。
好奇心がゾクゾクしてきたのでそのまま門を通りすぎると、
目についた見取り図で広大なキャンパスと判明。
同じルートを戻ってくるのもつまらないので、
反対側に通り抜けられるかどうかを守衛室に聞きに戻った。

守衛さんは言いました。

「住所、名前等の個人情報を記入してください。
 外部の方にはみんなそうしてもらっています」

さきほどはバッチと目が合ったのにそのまま通してくれたわね?
ちょっと前は内部の人に見えたのかしらん???
ひょっとして、すごーく老けた学生とか!!!

大学のキャンパスはちょっとした別世界。
外界の深刻な状況など何ひとつ無縁と思えるような
平和な学生生活を満喫している若者の光景が展開している。

歴史を感じさせる建物の、黒光りしている板の看板に「柔道部」とあった。
入り口の戸は開け放たれたまま、下駄箱に入りきれない履物が散乱している。
薄暗い建物にノコノコ上がりこむと、
柔道の練習に励んでいる道場の半分は、剣道部が他校と練習試合をしているようだ。
女流剣士の試合であるが、これが文字通りすごい剣幕。

「ギャァー、ギャァー」

彼女たちの掛け声は、草原で鉢合わせした雌豹が縄張り争いをするときのような騒々しさ。
男子柔道の掛け声は、完璧にかき消されている。
しかし、若い女性が一心に打ち込んでいる姿は、とても魅力的です。

お馴染みのテニスや野球の練習もとても活発である。
練習の中休みなのか?
ラクビーのたくさんのユニフォーム姿が木陰の下の地面に座り込んだり、
魚市場の床に転がされたマグロのように、ゴロゴロ横たわっている。

傍らの建物の入り口の空間では、CDカセットのミュージックを大音量で流し、
ヒップホップのダンスの練習に余念がない男女の学生グループがいる。
周囲の視線を意識しながら華麗なステップを踏んでいる様子が微笑ましい。

体育館でバレーボールとトランポリンを見学した後で、またブラブラ歩く。
少し前を、茶髪の片方の耳にピアスを3つも通している男子学生と、
それに見合った風体の仲間数人の男女の学生たちが楽しげに歩いている。

あらためて今時の若者の風体に驚いたりはしませんが、
心のどこかで「学習院まで・・・」

お目当ての馬術部は、正門とは反対側の一番奥にあるようだ。
キャンパスは木立に囲まれているが、
馬術部へ抜ける道はなおさらうっそうとしている。

急な長い石段を下りきると馬小屋があるが、そこへ到達する前の石段の途中で、
あるかなしかの横道に踏み入ってみると、ほとんど山の中の雰囲気である。
見上げると、木々の葉で覆われた薄暗い空間だけが広がっている。
驚くほど多くのカラスが木立を揺らしながらけたたましく鳴き騒ぎ、
すこし恐くなった。

「もし、ここで殺されてもわからないかも・・・」

とつぜん場違いな方向に想像が飛ぶ。

その山の中? に廃屋のような瞑想のための建物や
乃木希典が寄宿していた建物も保存されていて、さすがに歴史を感じさせる。

さて、いよいよお目当ての馬術部。

石段を下った辺りからすでに馬糞の匂いが・・・夏場はすごいことになりそう・・・
残念ながらお稽古時間が過ぎていたので、乗馬の場面は見られなかったが、
女子学生さんたちが愛馬を洗ったり世話をしているところに遭遇した。
女子学生さんとすこし会話をしましたが、
言葉遣いに始まり、彼女たちの輝くような美しさと物腰の品の良さに
すっかり感動しました。

すでに絶滅状態に瀕している日本女性の風情を目にする機会に恵まれ、
とても幸せな気分になりました。

こちらでは「さすが学習院・・・」

外国旅行でも機会を見つけては大学のキャンパスを訪問します。
その心は、若者たちがのびのびと青春を満喫している姿に出会いたいからです。
キャンパスという限られた空間だけではなく、
広い世間に於いても若者がのびのびと健全に過ごせることを願っています。
それはとりもなおさずこれからの日本や世界の行く末に反映することでしょう。


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