第181回 日本人の好奇心は、世界一

以前から日本人の好奇心は世界一ではないかと思っていたけれど、
それを実証するようなエピソードはたくさんあるようです。

つい最近も、日本から山中伸弥さんも出席した
ノーベル賞の授賞式が盛大に行われ、ニュース種になりました。

ノーベル賞の受賞者はスエーデンの首都に到着後、
翌日から一週間は毎日が分刻みのスケジュールに追われ、
第一日目はノーベル博物館の訪問し、
館内の客が使うカフェの椅子の裏に記念のサインをする。

これは慣習になっている公式行事のひとつだそうですが、
このカフェに、かつてのノーベル受賞者の中で、
日本人の田中耕一さんと小柴昌俊さんがサインした椅子だけが
特別にガラスケースに納められて展示されている。

受賞者のサインを見に来る日本人が多いために取られた
特別の策とのこと。

以前、オーストリアのヴェートーヴェンハウスを訪れたときだった。
ハウスとは、大きな建物の一室にある小部屋で、
ガランとした人気のない部屋に、頭部が寂しくなりかけた
小太りの中年男性が暇を持て余していた。

彼はさっそく怪しげな日本語でわたしたちに話しかけてきたけれど、
人のよさそうな彼とすっかり打ち解けて
夫婦の記念写真のシャッターを押していただいたりした。

「日本語がお上手ですね」とほめると、
「ここへは日本人が多いからね」と、うれしそうに答えた。

訪れる観光客の多くが日本人なので当初はなにごとかと思った、と彼は言い、
「日本人、だいすき」と付け加えた。

我が夫も、典型的な日本人です。

フランスの周遊ドライブ中に、突然予定外ルートを走る。

「あら、ルートが違うみたい」
「サント・ロペへ行く」

「またぁ、忙しい旅になるからイヤよ」
「ついでだ」

夫に言わせると、東京から大阪ほどの距離でもついでになる。

「なにかあるの?」
「ブリジッド・バルドーの別荘がある」

「別荘を見たって仕方がないじゃない。本人に会えるなら別だけど」

どんなに口で抵抗してもハンドルを握っているのはあちら。
こちらは拉致された身と同じで、結局は連れて行かれる。

こんな調子だから、アメリカではエルビスプレスリーの家やら
リンカーンの墓にも連れて行かれた。
それはがまんできるけれど、辺鄙なルートを延々と
不良青年のビリーザキッドの墓まで車を飛ばす。
悪名高いなんとか兄弟の洞窟も、わざわざ見に行った。

最近のスイスでは、1ケ月のドライブで相当疲れているのに、
ジュネーブから近いからと、チャップリンの別荘地の銅像を見たい、
オドリーヘップバーンのお墓と住んでいた家も見たいと言い出した。

明日は帰国だからドライブはしたくないと言う妻の意見を無視し、
地図もないのに車を飛ばし、一握りほどの小さな村をようやく探し当て、
チャップリンの銅像とヘップバーンのお墓を見て満足した。

この手のエピソードはかぞえきれないほどあり、
夫の過剰好奇心が妻を不機嫌にさせる、旅のすれ違い夫婦です。

いつかのテレビ番組で、ベルギーのアントワープの郊外に
童話の「フランダースの犬」の主人公の少年と犬の銅像が建てられ
それを取材していたけれど、そのいきさつがふるっている。

地元ではほとんど知られていなかったこの物語に、
遠い日本で感激した多くの人たちが、
モデルとなった村を訪ねてひんぱんにやってくるので、
地元の村役場の担当官がほうっておけなくなり、
やってくる日本人のために、とうとう銅像まで建てるはめになった。

このように、日本人観光客に対する特別な配慮はそこかしこで聞きますが
異国の村に専用(?)の銅像まで建てさせるほど、
日本人の好奇心は旺盛なものであるようですが、
やはり世界一でしょうか。

ちなみに、アントワープへは行きましたが
夫はフランダースの犬を読んでいなかったらしく
残念ながら、フランダースの犬の銅像は見ていません。

わたしはフランダースの犬に涙した少女であったから、
知っていたら、もちろん駆けつけましたよ。

日本人ですもの!


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