第178回 愛情のタレ流しとメリハリ

夫とテレビの動物のドキュメンタリー番組を見ていた。
氷の張った海で、氷の割れ目に落ちたタテゴトアザラシの赤ちゃんが、
必死で這い上がろうとしている。
テレビで見ている側も思わず手を握り締めて「ガンバレ!」と
声をかけたくなるような場面である。

しばらくして、ようやく這い上がってきた赤ちゃんアザラシを、
なぜか親アザラシはまた冷たい海中に突き落とす。
一度ならず、執拗に繰り返す。

それは見ていても切なくなるような場面であるが、
親アザラシは赤ちゃんをいじめているわけではない。
それから2週間も経つと氷は解けてしまう。
それまでにアザラシの子供が泳げるようになっていなければ
その先は生きて行けない。
だからアザラシの親も子も必死なのだ。
そして特訓の結果、2週間後にはアザラシの子は自立できるのである。

夫婦を長くやっているとお次の展開が見えてくる。
ここら辺りでお隣から何か反応があるのでは? と思っていると案の定。

「えらいもんだ、アザラシは」

お次のセリフもちゃんとわかっている。
「アザラシだってこのくらいはできるんだぞ」

その次のセリフも・・・
「なぜ、人間にはできないんだ」

そして最後の決めセリフ。
「人間も、動物の爪のアカを煎じて飲めばいいんだ!」

それから後のセリフは、際限がなくなる。
「親のお金で大学へ行かせて、その上車まで買い与えてフザケルにもほどがある」

「あなたが出すわけじゃあないんだから・・・」

「結婚式の費用を出し、家を建てる資金を与え、パラサイトとか言うヤツの
 生活費まで肩代わりして、それから・・・」

「ストップ! あのね、怒る人は早死にするそうよ、
 他人様のことでそんなに怒って、寿命を縮めたら馬鹿馬 鹿しいでしょ」

「そんなこと言っているから日本が堕落するんだ!」

「それをアタシに言われても困るけど・・・」

そのアタシだって、動物のドキュメンタリーで彼らの子育ての厳しさを
映像でみせつけられると、夫の言うことに共感せざるを得なくなる。

ずっと以前に見たキタキツネも忘れられない。
キタキツネの親子の別れは突然やってくる。
ある日、母親がいきなり子供を追い払う。
子供はその理由がわからなくてしきりに母親のそばに寄りたがる。

その子供に向かって母親は仇敵に対するような物凄い形相で噛み付く。
何度も何度も繰り返し噛み付く。
傷さえ負った子供はとうとう諦め、尻尾を丸めてトボトボと立ち去る。
その姿を見て、わたしは声をあげて泣いてしまった。

キタキツネやアザラシに限らず、野生の動物の親離れ子離れの場面は、
人間界では想像もつかないような厳しさがある。
そうしなければ、弱肉強食の野生の世界では生き延びることができないからだ。

一見、過酷とも思える親の子供への対応も、
子供が厳しい世界で生き抜いていけるための、必死の特訓なのである。
その彼らも、子供がその時を迎えるまでの間は、無償の愛情を惜しみなく与える。

つまり、野生の動物の親子関係は、愛情を惜しみなく与える一方で、
自立のための厳しい特訓も死に物狂いで施している。
人間世界の親子関係のように、愛情を際限なくタレ流すのではなく、
愛情にきちんとメリハリがあるということのようですね。

やっぱり見習うべきでしょうか?



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