第174回 男性も、美白とエステの時代

数日前、新聞の「男も美白で勝負」なる文字が目に飛び込んできた。
またしてもの感があった。
過去の話題には「男のブラジャー」もあった。

これは女装趣味の男性が、女性用のブラジャーを身につけるのではなく、
メーカーが男性用として作ったブラジャーを、
その趣味のない男性がシャツの下に着用するものである。

それが発売された当時は、世界の注目を浴び、国外のメディアも取材に来ている。
愛用者に、医師、弁護士、政治家もいるとメーカーは言った。

愛用者たちの言い分は「身が引き締まる」
「女性の気持ちがよく分かるようになった」
など、わけの分からない理由が並んでいた。

身が引き締まる代わりに心が弛み、
ブラジャーひとつで女性の気持ちがわかるなどは、
いい加減な言い訳と思った。

女性の気持ちがわかるなら、「そんなものを着ける男はキモチが悪い」という、
女心はどうなのよと、わたしは吠えたかった。

ある日の新聞の写真特集には「スカートを履く男たち」として、
街角で撮影した一般の男子のスカート姿が並んでいた。

男子のスカート姿は、スコットランドの伝統衣装が有名であるが、
かの地の男性がすべてそれを着用しているわけではなく、
伝統衣装としてのスカートは、日本男子が趣味で履くそれとは異なる。

新聞写真に登場した男子たちは、女装趣味としてではなく、
メンズ・スカートをファッションとして着用しているのである。

ウィキペディアに、次のような記述がある。

欧米などでは、スカートは欧米文化において、男女格差の解消や、
性の多様性の承認が進んでいるとはいえ、男性のあるべき像としては伝統的な
「強い男性」「女性を守る男性」の見方がなお有効である。
この故に、同性愛の社会的な承認や、性的少数者の権利運動、
LGBT運動などが展開されている他方で、「普通の家庭の男性」については、
「強さ」や「勇気」が求められており、スカートは女性の「弱さ」を示す
典型的な指標と見なされている。
この故に、スカートを着用する男性に対しては、社会一般の抵抗は強く、
受容されていない。

アメリカでは、いまだに<強いパパ>が子供たちの尊敬を集めているようであるが、
日本は「男女同権」を御旗に、性差のすべてに均一方式を採用したいらしく、
今では「強いパパ」は敬遠され、「ひたすら優しいパパ」が好まれるようである。

歪みはついに女性専科、あるいは牙城に思われてきた「美白」の世界にも
侵入してきたようである。

若い男性層を中心に「きれいな肌で、仕事や恋愛に差をつけたい」と、
男性用の日傘や化粧品、エステといった美白関連商品が、人気を呼んでいるとか。

UVカットされたチエックやストライプなどのおしゃれな日傘が、
販売を始めた2008年の5倍(2011年)になっているという。
20〜30代の若い外回りの会社員が、日焼けを気にして購入しているとか。

以前は、たしか日焼けサロンが流行ったのではなかったの? 
わざわざお金を払ってまで肌を焼くわけ? とそのとき思った記憶があるけれど。

東京のあるホテルは、一昨年から「男性のためのエステプラン」を導入。
顔や全身のマッサージを客室内で受けられ、2万2千からであるが、
新規の利用が毎月あるという。
もちろん、いかがわしいマッサージとは違う正真正銘の
「男性おしゃれ用マッサージ」である。

この傾向について、三菱総合研究所の主任研究員、片岡敏彦さんは
「<男らしさ>の考えが変わり、日焼けしていないきれいな肌の方がスマートという
若い男性が増えている」と、分析している。

今年の三月、タヒチに旅行した。
タヒチはホテル以外に見るべきものもなく、リゾートホテルでのんびりするのが定番である。

ホテルに滞在中、プールが改修工事が入った。
泳ぎたいならば、目の前に白い砂浜のプライベートビーチがあるので問題はないが、
ホテル側は詫びのつもりか、ひとり一食2500円の朝食を滞在中はずっと毎朝サービス、
レンターカー1日分、エステ・マッサージの無料サービスまでもつけてくれた。

ホテルのエステ・マッサージは評判らしく、他のホテルの滞在客も利用しにやってくるもので、
高価なものらしかったが、エステの予約はホテル側が勝手に取って決めていた。
(空いている時間をうまく利用?)

夫は、エステなど「ヘッ!」という人であるが、タダという欲と、好奇心の塊であるゆえに、
どんなものかとチャレンジした。

わたしは「他人にむやみに肌を触られるのは真っ平!」と、
かなり前時代的な理由でキャンセルし、部屋でくつろいでいた。

頃合いを見計らって夫を迎えに行くと、夫の顔がいやにすっきりしている。

「顔もしてもらったの?」と問うと
「顔はしてない。うつぶせになっていたからじゃない?」と答えたが、
それからは文句タラタラ。

「頭の中まで油まみれでキモチが悪い。あんな生ぬるいマッサージじゃ、
 何の役にもたたない。時間を損した」

夫は、エステ・マッサージと肩こりマッサージを混同しているようであるが、
いずれにしても顔ほどにはすっきりしなかったようである。

このような夫婦が、新聞記事の「男の美白とエステ」を読むと、
今の世の中で、若いモンがそんなことにうつつを抜かしている時なのかと、
もう、オフレコ発言のオンパレードになるけれど、
世間一般では「個人の自由じゃん」と、物わかりのよい方が多いようです。


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