第167回 視聴者御用達報道の弊害

最近、NHKの青山佑子アナが3月で降番することを知ったが、
ニュース番組で自己の結婚などをチラつかせたせいなのか?

わたしは女性のアナウンサーは、NHKは森田美由紀さん、
民放ではテレビ朝日の大下容子さんが本来のアナウンサーと見ているので、
タレントと区別がつけ難いような女子アナは見たくないから、
森田美由紀さん以後のNHKの9時のニュースの女子アナにはがっかりしている。

いつからかテレビはニュースとドキュメンタリー、
ちょっとした情報番組しか見なくなり、
テレビとは<食事のついでにしか見ないもの>になっている。

遅い夕飯時間がちょうどNHKの9時のニュースの時間と重なり、
必然的にニュースを見ながらお行儀の悪い食事をし、
番組内容について夫婦であれこれ好き勝手に話すスタイルが定着している。

かなり前のことだったが、その日の一通りの事件、事柄のニュースの後、
スポーツニュースに移ったところで、夫が「ふーん」と言った。

長年夫婦をやっていると、彼の「ふーん」の意味がわかったのでわたしは言った。

「このニュース、ちょっと変ね」
「変に決まってる。物ごとの順序としてはかなりおかしい!」

ニュースは以前の内容であるが、その日からスタートした
全英オープンゴルフの様子を伝えるものだった。
ゴルフはほとんどわからないが、精神的な意味合いが強い試合の様子を見るのは嫌いではない。

そのゴルフトーナメントに、ゴルフ界のアイドルともいえる石川遼選手も出場し、
平素にもまして注目が集まっていたようである。
しかも、あのタイガー・ウッズと同じ組なのだから、
ゴルフフアンならずとも楽しみにしている人もいるのではと思う。

石川遼選手はその若さにもかかわらず、
昨今の大人以上の落ち着いた態度に好感が持てるが、
ゴルフ界をほとんど知らないせいか、他の日本人選手がこのトーナメントに出場していることは知らなかった。

しかしニュースは、初日に21位につけた石川選手の様子を放映した後で、
久保谷健一選手が2位の好成績につけていたことを報じた。
他にも日本人選手が参加していたことを知り、
スポーツニュースの取り上げ方に疑問を覚えた。

21位の石川選手の様子は、パッドを入れる場面やらの詳細を、
2位につけた久保谷選手よりも先に、しかも長く流した。
そのため後から流れた久保谷選手の様子は、付け足しのような印象があった。

たしかに石川選手は圧倒的に知名度が高く人気も抜群である。
それゆえ視聴者の要望や意向を満たすために、
民放のニュースでは人気選手の一挙手一投足を、第一に放映することでしょう。

しかし、これは「人気」が第一であり、
肝心のスポーツニュースの試合の結果を報道する姿勢は二の次になっている。

以前に見られた「勝っても負けても巨人」の、あの姿勢である。

評論家は「久保選手は日本ではそれほど知られていません」と述べたが、
だからこそ2位という好成績につけた健闘を、
まず視聴者に知らせるのが順当だと思う。

民放ならば、もう何を言ってもと無力感に囚われているが、
税金が投入されているNHKまでがこのような姿勢では、
視聴者のひとりとして不満を覚えた。

「NHKまでが」とは言っても、数年前からすでにNHKもそれまでの「らしさ」が失われ、
今ではほとんど民放の番組の体裁と大差はなくなっている。

以前のNHKはよくも悪くも今風に表現すると「ダサイ」ところがあり、
それは「愚直」にも通じるもので、視聴者に一種の安心感、信頼感を与えるものだった。

今思うのは、なぜNHKが民放化しなければならないのか、の疑問。

以前はNHKのトップの名前など知らずにすごして来たが、
いつからか会長が国会に参考人招致とされるころから、
その名前をいやでも覚えるようになった。
番組つくりの堕落の印象の時期も、そのころに合致するような気がしている。

いつかどこかで見た記事に、NHKは若者離れを防ぐために努力をしているとあったが、
それが民放化ということになるのか。

昔のNHKは、ヌードになったタレントは使わない等の、
良くも悪くもNHKならではの厳しい倫理体制を敷いていたが、
今は民放となんら変わらない。

キンキラのスタジオ、ひな壇にズラリ並べた有名人ゲストの顔ぶれ、
若いお笑い芸人の多用等。
一度緩んでしまったタガを締めなおすのは、もう無理かもしれない。

ところで全英オープンの三日目にして、
ようやく久保谷選手の様子がトップで放映されたが、
石川選手が予選落ちして出場していなかったので、
後に残った選手が必然でトップで放送されることになったまでのこと。

テレビ番組でインタビューアーが、
スポーツ新聞のトップを飾った久保谷選手の写真を母親に見せながら言った。

「トップを飾りましたね、ご感想はいかがですか?」
「もう、びっくり! いつもは遼クンが出ていたので、
 まさかウチの息子がトップを飾るなんて」

まさに報道への疑問が凝縮されているようなコメントでしたが、
とても陽気で明るい感じのお母様はそこまで深く考えなかったと思う。
素直な感想を率直に口にしただけの印象でしたが、
やはりそれまでは母親としてはかなり複雑な思い、
あるいは切なかっただろうと胸中を察した。

今は斎藤佑樹選手を巡る報道合戦が、常軌を逸したかに見えるフィーバーぶり。
他に野球選手は存在しないのかと思うほどに、斎藤選手一辺倒の報道である。

有名人や人気がある人ばかりを中心にした視聴者御用達報道を繰り返していると、
物事の判断がだんだん変な方向に曲げられていきませんか?

国民にとって大切な選挙でも同じこと。
重要な国会議員の候補者を決めるのに、人気バロメーターのこの方式が、
当たり前のように使われているのではありませんか?

その結果、志のない人がたくさん当選して、
議員になってからの研修ではまず<選挙のやり方>を勉強させられることになり、
国民のためではなく、自分の選挙のために時間を費やしているその人たちに、
年間ひとり一億円以上もの歳費等の名目で税金が使われている。

やりきれないことこの上ない。

視聴者、つまりわたしたち国民のレベルがテレビ番組に反映され、
その結果としてさまざまな弊害が拡散していることになります。

大いに反省しなくては・・・



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