第160回 夜中のサイレン

夜中にベッドの中でふと目覚めたときに、
どこか遠くから風に乗って聞こえてくるような救急車のサイレン。
なんとなく不安な思いを数多く経験している。

時折、その音がだんだん近づいてきて、
我が家の近くで鳴り続いていると、不安はさらに増す。

「どなたかご近所の方が倒れたのかしら? それとも・・・」

いろいろ想像をめぐらせ、
カーテンの隙間からこっそり通りを覗いてみることもある。

近所で聞く救急車の音は昼間はほとんど聞いた事がなく、
申し合わせたように夜間、それも深夜に近い時刻が多い。

数年ほど前に我が家の近くのお宅に週に1度、多いときは2度の割合で、
救急車が駆けつけた。
その際、必ず中年男性の叫び声や口汚い罵声が聞こえた。

そのお宅は、広い駐車場を隔てた向側に位置していた関係で、
距離はあったものの、ドタンバタンという物音や、
「てめえらぶっ殺すぞ」などの物騒なダミ声が届けられ、とても怖かった。

救急車よりパトカーの方がよいのではと思っていたら、
パトカーも駆けつけることもあったが、なぜかほとんどが救急車だった。

東京都の試算によると、救急車の1回の出動経費は45000円也。

以前の新聞記事に「このままじゃ・・・救急車一部有料に?」の記事があったが、
東京都内の救急車の出動件数が急増しているという。

高齢化で独居老人が増えていることに加え
「無料で搬送してくれる」
「診療が優先的に受けられる」
などの理由から安易に利用するケースが目立ち、
それにより「活動に支障を来たし余分な負担が生じる」と言う。

この問題はかなり以前にも、
問題提起としてテレビ番組で放映されたことがあるけれど、
東京に限らず全国的な傾向らしい。

東京消防庁によると、「具合が悪い」「腹が痛い」と要請をうけて駆けつけたものの、
症状を確認すると「独り暮らしで寂しかった」「ひとりで病院へ行くのが不安だった」
と打ち明けられ、そのまま引き揚げるケースもあったという。

救急車をタクシー代わりに使おうとした50代の男性は
「9時から入院することになっている」と病院名を指定して出動を要請し、
衣類を入れた紙袋を手に持って待っていた。

「歯が痛い」と夜間に要請をした若い女性の理由は、
「診察してくれる歯科医院が分からなかったから」だそうだ。

彼らは救急車を足代わりに使いタクシー代を浮かせる算段があり、
自分で医者を探す手間を省く代わりのものと思っているふしがある。

搬送者の内訳は、生命に危険のない軽症者と中等症者が約9割を占め、
そのうち入院の必要がなかった軽症者は約60%、搬送者の半数以上が
救急患者とは言えない状態であったとのデーターもあるようだ。

無料だから気軽に利用するのだろうか。

アメリカの救急車が有料なのはすでに知られているが、
利用した人の記録の一例では、20分ばかりで600ドル。

最近のニュースで、埼玉県議会が防災ヘリの遭難者側費用負担条例案を
9月県議会に提出する動きが出てきたが、これが成立すれば全国初となるが、
その後の9月県議会で「拙速すぎる」と見送る方針を固めた。

登山の遭難にしても、通勤靴に体ひとつの軽装備で、
ちょっと登ってみようと気軽に出かける人も結構いるらしく、
結果として遭難騒ぎを起こす。
中には疲れて下るのがいやになり救助ヘリを呼んだ、という例もあるが、
救助員にしてみれば憤懣ものでしょう。

日本でも救急関連の要請を有料にしたら、その数は確実に激減すると思う。
しかし、これまで無料だったシステムが有料になることは、
真に救護を必要としている人が利用できなくなる事態も発生する恐れがある。

日本の弱者にやさしい救急システムが、モラルのない人たちの乱用により、
そのやさしさが維持できなくなるとしたら、とても残念です。


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