第157回 中国人の買い物ツアー

テレビで秋葉原や銀座でショッピングをする中国人のツアー客の様子を
レポートしていた。
中国の人のそれは、
ショッピングというしゃれた言葉のイメージを破る雰囲気があり、
まさに買い漁りの様相であった。

秋葉原の家電売り場での店員教育は、
中国語を話せるということにもなるのだろうか。
日本人店長さんの店内放送は流暢な中国語で、店員にしても同様。

しかし、中国語の習得は発音や四声の壁が厚くなかなか難しいから、
手っ取り早く中国人を雇用するせいか、
秋葉原では中国人の店員さんもめずらしくないようである。

その日の中国人のバスツアーは4台。
店はこれで手一杯、もう次のバスが来ても対応しきれないと、
うれしい悲鳴をあげていた。

取材が小太りの中国人のオバサンに買い物の内容を聞くと
「50万円の一眼レフカメラ、電子炊飯器」と答え、予算は100万円と笑った。

しかし中国人ツアー客が押し寄せるのは、秋葉原だけではない。
銀座も今は中国人観光客がツアーバスを連ねる人気スポットである。

やはり小太りの50代に見えるオバサンカップルに、
買い物に使った額を聞くと「600万円!」と、答えて高らかに笑った。
買い物の主な内容はバッグが5つとか。
日本のギャル風の若い女性は、「100万円くらい使うつもり」と言った。

前述の金額は日本人にとってもかなり高額であるが、
生活水準や物価水準が違う中国人からすれば、
日本人が感ずる以上に高額になるはずであるから、
一体どういう階層、あるいは職業の人たちだろうと興味が募った。
若い女性は親の財産も考えられるが、
主婦たちの外見はごく普通の田舎のオバサンの印象があり、好奇心も湧いた。

以前に見たドキュメントの中国人の買い物も迫力があったが、
とにかく買いっぷりが豪快である。
まるでスーパーのカートに野菜を投げ込むように、
商品をロクに確かめもしないで、ぽんぽんと家電製品をカートに放り込む。
同じものを4個5個と買うのは、親戚や友人へのお土産だそうだ。

中国人のショッピング風景に呆れるやら驚くやらしたが、
日本もバブル時代に海外で同様な買い漁りをして、
ついでに顰蹙まで「買った」経緯がある。

ウイーンのブランドショップの店は、
ついには日本人観光客にはブランド物を売らないと、
日本人観光客を締め出してニュースになった。

日本では大阪商人が代表されるように、
目ざとい商人はどこの国でもいるようだが、中国には温州商人がいる。

以前のレポートで、温州商人が北京や上海の都市部の
高層マンションの部屋を買い漁る様子を見た。

不動産買い付けツアーバスで、マンションの現場へ乗りつけた、
一見普通のオジサンやオバサン、オニイサン風が、
現金の束を手に不動産業者と丁々発止とやりあう。
武器は持ち込んだ現金の束と大量のまとめ買いで相手を揺さぶり、
一銭でも安くと買い叩く。

彼らは住まいの条件に欠かせない間取り等には一切目もくれないが、
ロクに物件さえも見ないのである。
自分たちが住む必要がないから気にしない。
ひたすら立地条件と金額にこだわる。

その温州商人が、バブルが弾けた中東のドバイに目をつけた。
建設当初から話題のブルジュ・ハリファは、
2004年から6年をかけて2010年に完成した地上828メートル、
160階の世界一のっぽのビルである。
本来なら華々しくオープンをアピールするはずのこのビルは、
その完成を待っていたかのようなタイミングでドバイショックに襲われた。
ドバイのあちこちに建設途中のビルや施設が放置され、
その様相はまるでゴーストタウンである。
もちろん不動産価格は大暴落。

目ざとい温州商人はそこに目をつけた。
ゴーストタウンの様相のビル郡を見ると、普通の人は投資を躊躇するところでも、
「絶対に価値がある」と踏んで「ピンチはチャンス」の定石通りに、
温州商人は国外でも不動産買い漁りツアーを実施し、値切り交渉に及ぶ。

ツアー一行を率いるのは、
お腹の出っ張ったポロシャツに黒ズボンのラフなスタイルの投資専門家。
30代くらいの慎太郎刈りのオニイサンみたいな人物も、
黒の半そでのTシャツに黒ズボンだから、
みんなそこらにお散歩に行くような気軽なスタイルのツアーの7人。
その面々が用意した総額は30億円。
度胸がなければとても出来ない不動産買いは、
ほとんどギャンブル感覚と同じかもしれないと思った。

日本人も、かつてバブルのころはニューヨークで、
アメリカの象徴とも言えるビルを買い漁り、フランスの古城を手に入れたりと、
今の中国人と同じような買いっぷりを世界に披露した。
その日本は、今や凋落を辿り、買い漁ったビルも次々に手放した。

バブルに浮かれ過ぎると、やがて中国も同じ憂き目に遭うかも知れないが、
今や日出国となった様相の中国人には、
その姿はなかなか想像がつかないかもしれない。

かつての日本人がそうであったように・・・


注、2011年にドバイに行きましたが、
  その時の印象はすでに立ち直ったと感じました。
  
  やっぱり温州商人はすごい!
  きっとかなり儲けたのね。



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