第153回  わたしも加害者予備軍?

新聞やテレビで事故などの記事を見るたびに「怖い」と思うのは、
自分がいつそれらの事故の被害者になるかもしれない恐怖と不安があるから。

しかし最近、ある出来事を通じて
自分が事故の加害者になる可能性が強いと、
別の不安と恐怖を感じた。

晴れた日の午後、歩道をご機嫌で歩いていた。
目の前の電柱を避けるために一歩横に体を移動させた。
わが市は歩道の拡幅工事をした後、
なぜか電柱はもとの位置にそのまま残っているので、
電柱が歩道の真中に突っ立っているから、
なにか考え事をしていると電柱に頭をぶっつける羽目になる。
それゆえ電柱をよけるために身をかわす必要がある。

しかし、そのときわたしの肩先をかすめた自転車が、
わたしを避けようとフラリと傾き、フラフラとハンドルがよろめいたが、
どうやら体勢を立て直してそのまま通りすぎた。

その自転車を見てぞっとした。

自転車の主は若いママであり、荷台の籠に幼児を乗せていた。
普通に転んでも籠から放り出された幼児の大けがは間違いないが、
運が悪ければ死に至る。

その歩道は車道よりレンガ二つ分の厚さの段差があり、
ママの自転車の車輪はその淵でようやくとどまり、辛うじて体勢を立て直したが、
ころがり落ちていたら大けがは免れても車に轢かれる可能性もあった。
わたしの全身の血がさっと引き「もし、そうなっていたら」と考えると、
ママの姿が見えなくなっても、しばらくはショックで呆然とたたずんでいた。

実はそれ以前にも、血の引くような恐ろしい経験をした。

夫が運転する車で走っていた時、前方の歩道を自転車が何台かやってきたが、
その歩道は人がひとり歩くのがやっとの道幅しかない。
その幅なら通常は車道との境目に白線を引くだけだが、
なぜかその歩道は段差があった。
そのうえ住宅の出入口の歩道の部分は車道と同じ低さであったので、
住宅ごとに歩道面は大波を打っているような状態である。

狭い歩道に高低差があり、大波まで打っているとなると危険度はさらに増す。
以前その道を歩いていたとき、波打った歩道に足もとが急にガクンととられて
歩くだけでも怖いと思ったが、自転車でやってくる人はみなフラフラして見えた。

その姿を車の窓越しに「危ないなぁ」と見ていたが、
白髪の男性が急にフラッとよろめいたかと思うと、
いきなり歩道から我が家の車の前に自転車ごと転がり落ち、倒れこんできた。
夫がすさましい勢いでブレーキをかけ、車が前につんのめり、わたしは目を閉じた。

男性の姿はボンネットに隠れて見えない。
車の衝撃がブレーキによるものか接触なのか分からなかった。
夫も蒼白になり息をひそめ、その間とても長かったような気がしたが、
実際はほんの少しの間だったと思う。

やがてボンネットの向こうから白髪の頭が見えて顔が現れ、
彼は何度も「申し訳ない」というように頭を下げた。

それはそうでしょう。

いきなり目の前に飛び込まれた状態で、
こちらの責任と言われても納得できないけれど、
彼は自分の非を素直に認めたようであった。
あと数十センチの差で、我が家は交通事故の加害者になるところだった。
安堵をおぼえると同時にすごい怒りを覚え、
夫婦で「なんて危ないんだ」と、繰り返し言い合った。
それは誰に言うともないぶっつけようのない怒りだったが、
男性に怪我がなかったのが幸いだった。

似たようなことは続けて起こるものと思ったのは、
若いママの自転車よろめき事件の数日後、
スーパーで買出しの買物袋を両手に提げて歩き、
歩道に重い袋を置いてちょっとひと休みの後、さてと袋を持ちあげたとき、
すごい勢いでさっとわたしの身をかすめた自転車が、
わたしの動きに反応したのか「おっと、と」と声を上げた。
中年男性がよろめいた体勢で転ぶ寸前に足をついてとどまった。

わたしはとっさに「ごめんなさい」と謝ったが、男性は無言で立ち去った。
なんだか腹が立ってきた。
わたしは何も悪いことはしていない。
歩行者が決められた歩道を普通に歩いていただけ。
相手は猛スピードであり、
自転車が走ってはいけない歩道をやって来たのだから、
悪いのはあちらのはず。
それでもその時は事故が起きなかったことに感謝して胸をなでおろしたが、
似たようなことは何回か経験している。

しかし、不思議に思うのは法律で定められているのに、
自転車の歩道走行ほど堂々と破られている事例は他にないのではないの。

わたしは今は自転車に乗る機会がないが、もし乗るとしたらどうなのか。
車が行き交う車道を一緒に走るのはとても怖いと思うから、
歩道を走る自転車も無理はないと思っている。
みんなそう思うが故に、堂々と法律違反がなされているのでしょう。

あなたの町で、車道と歩道を走っている自転車の割合はどうなのでしょう? 
たぶん歩道を走る自転車の割合が断然多いと思っていますが、
少なくとも東京はそのようです。

これは法律が実態に即していない、典型的な事例だと思っていますが、
ほとんど守られない法律が存在する理由はどこにあるの?
なぜ実態に合うように法律を変えないの?

それ以前に、自転車乗りのマナー教育を徹底させる必要があると思っている。
現状では普通に歩いている歩行者が事故を起こしてしまう可能性が大いにある。
もし事故を起こし加害者になり、法的には自転車側が悪いとされても、
(まさか多くが「運転手の前方不注意」とされる自動車事故のそれが
 歩行者にも適用されるかどうか知らないけれど)関った者として、
 心に取り返しがつかない傷が残る。

これでは安心して歩道も歩けない。
わたしは歩行者として決められた場所を普通に歩いているだけなのに、
ある日突然、事故の加害者になりたくはないと切実に願っています。



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