第151回 スーパー舞台をグチる

わたしの日常をわかりやすい言葉で表現すると、<シャチハタ生活>

毎日スタンプのようにきっちり決まりきった日常が押し出されてくる。
たまに行く旅行を除けば、ほとんどが家事、お散歩、スーパーの
トライアングルゾーンに収まっている。

それで当人は満足しているけれど、
あまりに没世間であってもいけないと時どき反省する。

確かに家にいるのは好きだけれど、没世間が過ぎると
しまいにはどこかの総理大臣の誰かさんみたいに、
宇宙人と称されるワケのわからない人になってしまうかもしれないと、
危機感を覚えたりする。

そんなわたしが唯一世間と触れ合うのはスーパーである。
人が生活をするのに必要な物資を求めて、
幼児から高齢者までがやってくるスーパーという空間ほど、
日常が垣間見えるところはないと言っても過言ではない。

それゆえにスーパーでの興味は、
もっぱら世間のウオッチングに費やすような形になっている。

わたしはなるべく新鮮な食材が欲しいので、
お散歩の帰りに毎日か、少なくても二日に一度はスーパーへ顔を出す。
料理をするのは大好きだけれど、お買い物は大の苦手。
それでもスーパー通いが頻繁に出来るのも、
スーパーという舞台で繰り広げられるさまざまな舞台劇に出会えるから。

みかんが出回る季節には、袋入りのみかんが売られているが、
最盛期になると袋入りではなくみかんを山積みして大放出する。
そのときのみかんの早掴み競争の様相は見ものである。

目を血走らせ、髪を振り乱して我先にと大きなみかんを掴む主婦族に混じって、
黒一点とも言うべき初老のスーパー・マン氏も奮闘する。

男女同権が当たり前となった世の中で、
別に珍しいことではないと努力はしてみるけれど、
やはりマン氏のみかんの掴みどりは珍しい。
じっとその挙動に注目しているわたし。

トマトでもキュウリでもリンゴでもアボガドでも、
手当たり次第に手にとったものは揉まなければ気がすまない中年女性もいる。
彼女はさんざモミモミした商品をうっちゃって、
まったく別物をひょいと籠に入れ、さっとその場を離れる。

(ちょっと、それはないでしょ。揉んだ跡がみんな傷みになっちゃうのよ。
 担当者が自信を持って店頭に並べた商品が台無しじゃないの)

鮮魚売り場や精肉の売り場でも、ラップの上から指で押してみる人、
あっちのトレイを持ち、こっちのトレイにも手を出して、
じっと見比べてその場を動かない人。

(あのね、わたし急いでいるの。あなたの前にあるお肉を買いたいの)と、
 彼女の背中を眺めつつ、背後霊のようにじっと待っているわたし。

商品紹介のデモンストレーションで、
いろいろな味付けのハンバーグの焼いたのをすべて試食し、
「おいしいわね」と販売員にお愛想を言いながら買わずにそのまま立ち去る人。

(勇気があるなぁ。わたし試食だけしたいけれど勇気がないから手が出せないの)

金目鯛の切り身2枚が800円也。
ダイエットしすぎたかのように切り身が細すぎるから、高い!

しかし、世の中は広い。

一寸のためらいもなく、さっと籠に放り込むご婦人がいる。
思わずお顔を見ると、ちょっと生活の疲れを反映しているような印象。

人は見かけによらないけれど、ひょっとして収入を無視してグルメに走る人?
収支の帳尻をきちんと考えるのは、政府はもちろんだけれど、
家庭の主婦だって同じことなのよと、心の中でお節介。

そこでわたしは切り身を諦め、黒鯛の頭4個を150円也でお買い上げ。
これは大当たり。
甘辛く煮付けたら絶品で、特に目玉の周りはおいしい。
なにより切り身をあっさり箸でつまむよりも、
お頭をチマチマつつきながら身をほじくって食べる楽しみは格別のものがある。
安いうえに楽しめるなんて最高のお買い物!

以前はあまり見られなかったけれど、
カートに幼児を乗せている親が多いのはなぜ。
食料品を運ぶカートに、泥のついた靴のままの我が子を運ぶ親の顔を
思わず眺めてしまうけれど、
今ではしょっちゅう見るので当たり前になってしまい、
もう顔を眺めることもなくなってしまった。
これが慣れというものだとしたら恐ろしい。

カートは外へ持ち出さないように出口に張り紙がしてあっても、
そんなこと知ったこっちゃないと、
スーパーの建物から駐車場へ至る途中にカートが放置してある。
以前はそこを通ったついでに、もとの位置まで返しておいたこともあるけれど、
今は馬鹿馬鹿しくてやめてしまった。

それにしてもわたしが通うスーパーの鮮魚売り場で、
切り身がなぜ3枚だけのパックしかないの?
丸ごとのサンマも3匹入りのパック。
両親と子ども一人の家庭を想定しているのだと思うけれど、
夫婦者だけの世帯は差別されているの?
なぜ2枚入りのパックはだめなの?

あんなに副店長さんい何度もお願いしてもダメなのね。
今日も3枚入りを2枚にしていただいたけれど、
パックを移し変えるだけなのに、呆れるほど待たされるのはイヤガラセなの?
それとも、あれからお魚を釣りに行っていたの?



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