第150回 人間に与えられた素晴らしい能力

活字離れが問題視されるようになってから、それを受けるかのように、
長年出版を続けてきた歴史のある雑誌が次々に廃刊している昨今。
雑誌に限らず書籍全般の売り上げも下がり続けていると聞いている。

村上春樹さんの最新刊のように、異常に思えるほどの売り上げ記録を見ると、
出版不況は「本当かなぁ」と疑いたくなります。
時おり話題になる本も、たちまちベストセラーになり、
すごい数の売り上げ記録を誇るのでますます不思議に思う。

しかし、これらはもともとその作家のフアンの固定数の上に、
「とりあえず話題の本は読んでおこう」という一過性の現象が
積み重なったものだと思えるふしもあるので、
やはり書籍全体の売り上げは減少しているのか。

人間が物事を考えるとき、読書という行為を除いては語れないほど、
読書は人間にあらゆる知識を植え付けてくれるものと信じているが、
他の動物も物を考える能力はあるのか。

チンパンジーの実験やら絵を描く賢い象さんを見ると、
充分に能力を備えていると思えますが、
家で飼っている猫ちゃんやワンチャンにそれを感ずる飼い主さんも
多いことでしょう。

試しにワンニャンちゃんのオシッコやウンチをする様子を
じっとごらんになってみてください。
わたしはタイクツなときにノラ猫ちゃんのウンチをする様子をよくじっと見ますが、
とてもきまり悪そうな恥ずかしげな表情を見せる。

「ちゃんとわかっているのね」と、わたしは思っている。

余談になりますが、
以前アメリカの公園でオシッコをしたJALの副操縦士が2日間拘留され、
罰金25ドルを払わされたことがある。
彼が恥を知らなかったために、副操縦士が間に合わなかった別便は欠航となり、
乗客に多大な迷惑をかけたようだ。

さて、話を本筋に戻しますが、
他の動物の物を考える能力は限られているように思うが、
神様から人間に与えられた最大のプレゼントは
「限りなく物を考える」ことではないかと思っている。

物を考えない人たちが増えると、物を考えない行動に走る人たちが増え、
常識では考えられないような事件を起こすことを今の世の中が証明している。

読書離れは、せっかく人間に与えられた素晴らしい能力
「考える力」を放棄することにもなり、とてももったいないと思う。

読書は古今東西の名著を読まなければと構える必要はなく、
ちょっとした他人の意見や主張にも教えられることがたくさんあり、
わたしはもっぱら新聞の読者投稿欄でそれを学ばせてもらっている。

我が家で購読している読売の読者投稿欄は、
読者層を反映しているせいか世代別には中高年がかなり占めている。
中には常連と思える主婦の方も見られ、
名前を覚えるのが不得意なわたしでさえ覚えるくらいである。
独自の視点が新鮮でツボを心得ているのはさすがと思うが、
わたしの心が向くのは受けた感動や思いを書かなければいられないという
一途さが感じられるものだ。

おそらく文章コンテストの審査員も、このような心境ではと思えるものです。

以前は若者世代の投稿はたまにしか見られなかったが、
少し前から投稿欄の半分を裂き、定期的に若者の意見の枠を設けているため、
今では若者の考えを広く読むことができようになった。

現代のさまざまな環境の若者のからの視点や思いが寄せられ、
教えられたり感動することが多くある。

ある日の新聞を紹介してみたい。

まず14歳の男子中学生の概要。
「勉強が嫌いだけれど、就職しようと思ってもどこでも雇ってくれないから、
 高校受験に向けて少しずつ勉強している。でも勉強してこなかった分、
 少しの勉強では不安を取り除けなくて今にも自分が壊れてしまいそう。
 でも今は楽をしては駄目だとわかってきたので、嫌いだからこそ頑張っていかなければ」

ガンバレ! と思わず目頭が熱くなった。

15歳の中学生の女の子の概要。
「仏像ブームと言われているけれど、
 修学旅行で京都奈良に行くまではわからなかった。
 東大寺南大門の金剛力士像を見たとき、
 これが教科書で見たものかとあまりの迫力に言葉も出なかった。
 時間がなくてじっくり見れなかったのでまたいつか行きたいと思う」

仏像が大好きなわたしには、その子の感動が伝わってくるようで、
またしても胸が熱くなった。
それにしてもインフルエンザで修学旅行が中止になった子供たちのことを
あらためて思い起こした。

15歳の高校生男子の概要。
「古典の授業で徒然草の一説を読んだ。ある人が出雲大社にお参りに行き、
 狛犬が後ろ向きになっていたので何か深いわけがあるのだろうと思ったが、
 単なる子供のいたずらだった。徒然草が書かれてから700年も経っているのに
 とても面白く親近感を覚えた。古典はとっつきにくいイメージと思っていたけれど、
 書かれているのは今と変わらない人間の営みだったことを知り、
 それがうれしかった」

彼の感受性に拍手。
この投稿で徒然草を読んでみようと思った人もいるかもしれない。

17歳の女子高校生の概要。
「自営業でよかったと言う父に理由を聞くと、
 <ずっと家にいられるから家族と過ごせる時間が長い。
 限られた人生の中で家族と過ごす割合が大きいほうがいいと思う>
 私は父と一緒に過ごせる時間が限られていると思ってもいなかったから、
 なんだか寂しい気持ちになった。
 イライラしているときに家族に辛く当たった自分を反省した」

親の心が子供に伝わった瞬間を見事に教えてくれている。

最後は20歳の男子大学生の概要。
「次の衆院選は私にとって選挙権を得ての初めての国政選挙となる。
 しかし、現状では積極的に投票したいと思える政党が見当たらない。
 いずれの政党からもこの国の将来をどうしようとするのかが伝わってこないのが不満だ。
 <政権選択>選挙と呼ぶにふさわしい政党の姿を示してもらいたい。
 投票日には、前向きに選択できることを願っている」

今日もいろいろと若者から刺激を受け、教わることがたくさんありました。



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